ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

早春のゆるむしの森–2021

カテゴリー:日記・その他

自然観察計画地の「ゆるむしの森」ですが、昨年の夏に視察に訪れた際には、森やブッシュが深くてなかなか森全体立ち入ることができませんでした(→ゆるむしの森活動拠点の視察)。そこで木々が落葉し、少し暖かくなってきた今の時期に、調査に向かうことにしました。

森に着くと、すっかり落葉してスカスカになったハンノキの森がまず出迎えてくれました(写真1)。夏は下草が生い茂り、侵入するのも容易でなかった場所ですが、今日はくまなくこの森の中を散策することができました。数えてみたら100本近くになりました。

写真1

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ハンノキはどちらかと言えば湿気の多いところに繁茂する印象がありますが、あまり水気のないところにこれだけの本数が生えているとは不思議です。もともと水田だったところなので、成長できる下地はあったということでしょうか。

ハンノキの森を出ると、今度はブッシュのエリアになります(写真2)。夏はとても立ち入ることができなかったところです。目を凝らすと、ブッシュの間に、ムクノキ、エノキ、クヌギ、コナラ、ミズキ、カキノキ、イチョウクスノキネズミモチなどの低幼木を発見できました。

夏は日照りが強く、乾燥気味のエリアですが、これらの幼木は無事育つことができるでしょうか。

写真2

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写真2の遠くに見えるのは、ケヤキやアキニレの高木です。左側に見える低木群は、樹高 6 m 程度のアキニレの森ですが、あまりにも本数が多くて、数えきれませんでした(おそらく200本以上)。

これらの森の周囲やブッシュの中には、ポツポツとエノキの低木(樹高 2-3 m)が生えていました(写真3, 4)。昨年夏に沢山のゴマダラチョウやアカボシゴマダラが乱舞していましたので、たぶんこれらのエノキが発生を支えているのだろうと思われます。

少し落ち葉をめくってみましたが、探した範囲では越冬幼虫は見つけることができませんでした。

写真3

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写真4

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これから春に向けて、様々な草本が芽生えてくると思いますが、どんな種類が出てくるか楽しみです。森の中の主な観察路を確保し、枯れ草を伐採、除去して今日の視察、作業を終えました。

引用したブログ記事

2020年6月28日 ゆるむしの森活動拠点の視察

             

カテゴリー:日記・その他

小川や水溜りの茶色い沈殿物の正体は?

カテゴリー:科学おもしろ話

水田や緑地などを散策していると、小川、用水路、湿地の水溜りなどに、ときどき茶色い沈殿物を見ることがあります。写真1は、水田の用水路一面に見られた赤褐色の沈殿物です。このブログカテゴリーのヘッダにも使っている写真です。

写真1  水田の用水路に見られた赤褐色沈殿物(2020年2月12日、千葉県印西市

次は、街の総合公園の散策路に見られた黄褐色の沈殿物です(写真2、3)。

写真2  公園の散策路に見られた黄褐色沈殿物(2020年9月17日、千葉県松戸市

写真3  公園の散策路に見られた黄褐色沈殿物(2020年9月17日、千葉県松戸市

実は、これらの沈殿物の正体は、環境中に生息する鉄細菌の作用でできた鉄化合物(Fe(OH)3nH2O)の沈着物と鉄細菌とが混ざった微生物被膜(バイオマット)です。被膜の色状は薄い黄色から赤褐色まであって場所や時期によって異なり、その広がり方も様々です。写真1の用水路にできた微生物被膜は、約 100 mの長さに達していました。

鉄細菌は、二価鉄イオンを三価鉄イオンに酸化したとき取り出した電子の流れを利用して化学エネルギー(ATP)を生成し、炭素(二酸化炭素)固定を行う、独立栄養あるいは混合栄養の微生物です(図1)。正確には鉄酸化細菌と言います。水中の鉄イオンを酸化する結果、菌体の周辺に水酸化鉄を多量に沈着します。

ちなみに、独立栄養とは完全に無機物だけで生育できる栄養形式をいい、混合栄養とはエネルギーは無機物の酸化で得るけれども、炭素源は二酸化炭素有機物の両方を利用する栄養様式を言います。
 

図1. 鉄細菌(鉄酸化細菌)の二価鉄イオンの酸化プロセスにおける化学エネルギー(ATP)獲得、炭素固定、および水酸化鉄(黄褐色沈着物)の生成(文献 [1] より転載・リトレース).

環境中の鉄細菌の生育により多量の水酸化鉄が生成されると、私たちの目には赤錆のように見えてきます。トンネル内などでも壁を伝って水が垂れているところに、赤錆のように変色している部分を見ることがありますが、それも鉄細菌による水酸化鉄の沈着です。

環境中で鉄細菌の被膜が発生した場合、上部の水面は油が浮いたように光って見えることがあり、油膜と間違われることもあります。しかし、鉄細菌の被膜は割と有機汚濁が少ない環境(きれいな環境)に見られることが多いです。

油膜と見分ける最も簡単な方法は臭いを嗅いでみることです [2]。いわゆる油臭さは全くありません。被膜の一部をとり、DNA染色剤で染め、蛍光顕微鏡下で観察すれば、それが無機物と細胞が混ざった塊りであることもわかります [3]

私たちは微生物を直接肉眼で見ることもできず、普段その存在を気にすることもほとんどありませんが、このような環境中の微生物被膜を見るにつけ、自然界における彼らの生命力を感じざるを得ません。

引用文献

[1] ScienceDirect: Iron Bacteria. https://www.sciencedirect.com/topics/engineering/iron-bacteria

[2] 小池良平: 油膜と鉄バクテリアの判別方法-油膜と思いこむ前に. 技術開発ニュース No. 143 2011-7. https://www.chuden.co.jp/resource/seicho_kaihatsu/kaihatsu/kai_library/news/news_2020/news_143_09.pdf

[3] Dr.Tairaのブログ:有馬温泉と鉄細菌. 2018.06.05.
https://rplroseus.hatenablog.com/entry/16328299

              

カテゴリー:科学おもしろ話

ゆるむしの森ー初めての生き物観察

カテゴリー:生き物観察

今日、「ゆるむしの森プロジェクト」の活動拠点の予定地である埼玉県内の森の視察と生き物調査を初めて行いました(→ゆるむしの森活動拠点の視察)。目的地に到着して、ハンノキ自生の林、アキニレ自生の林の周辺、メダケ林、これらの間にある田んぼや草地を順に観察しました。

最初に驚いたのは、アマガエル(ニホンアマガエルDryophytes japonica)やヌマガエルがとても多いことでした(写真1)。土の上、草むら、灌木の葉の上など、とにかくこれでもかと出てきます。そのせいか、ヘビも多いようでアオダイショウやヤマカガシを目撃することができましたが、残念ながら写真に収めることができませんでした。

↓写真1f:id:yurumushinomori:20211122174731j:plain

昆虫では、キタテハ(タテハチョウ科)が乱舞するのが目立ちました(写真2)。コムラサキゴマダラチョウも1頭ずつ目撃しました。それぞれのタテハチョウの食草であるカナムグラ、ヤナギ類、エノキの亜高木も確認することができました。

↓写真2f:id:yurumushinomori:20211122174747j:plain

森のエリアの周辺には沢山のエノキ低幼木が自生していたため(写真3)、葉上を観察してみました。ちょうど、アカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis (日本本土産)の2化目の終齢幼虫の時期です。

↓写真3f:id:yurumushinomori:20211122174802j:plain

案の定、エノキの葉上には沢山のアカボシゴマダラの終齢(5齢)幼虫を観察することができました(写真4, 5)。日本本土産のアカボシゴマダラは特定外来生物に指定されている、主に関東地域に生息するチョウですが、幼虫段階で同じエノキを食樹とする在来種のゴマダラチョウとは棲み分けをしているようであり、もはや共存している印象を受けます。

↓写真4f:id:yurumushinomori:20211122174813j:plain

↓写真5f:id:yurumushinomori:20211122180929j:plain

チョウ類ではこのほかに、アオスジアゲハ、キアゲハ、ナガサキアゲハ、モンシロチョウ、キチョウ、コミスジヒカゲチョウ、ヒメジャノメ、サトキマダラヒカゲツマグロヒョウモンヤマトシジミベニシジミ、ツバメシジミイチモンジセセリ、オオチャバネセセリ(埼玉県准絶滅危惧種)などの成虫を観察することができました。

水田に目を投じると沢山のオタマジャクシとともにガムシ Hydrophilus acuminatus(埼玉県准絶滅危惧種)の幼虫を見ることができました。ミミズを捕食する光景は迫力がありました(写真6)。

↓写真6f:id:yurumushinomori:20211122174850j:plain

森の横の小川には、ヘラブナやコイ、イシガメを見ることができました。さらに、草むらにはキジの夫婦がいたのには感動しました。

正味1時間の視察・観察でしたが、1ヘクタール弱のエリアの中で期待以上の多くの種類の生き物を観察することができました。これから、植生の調査を行いながら、森の奥や草むらの中の生き物も詳しく見て行く予定です。

引用したブログ記事

2021年6月28日  ゆるむしの森活動拠点の視察 

            

カテゴリー:生き物観察

ゆるむしの森活動拠点の視察

カテゴリー:日記・その他

「ゆるむしの森プロジェクト」は、現在、NPO法人化を目指しながら10名弱で活動を行っている有志の任意団体です。活動内容は昆虫を中心とする生き物観察、生態環境の調査、科学教室・ワークショップの開催、講演会などです。活動の目的として、自然観察や森の保全を通じた科学情リテラシーの向上や自然との共生の目指しています。

今年6月から、埼玉県東部の平野の真ん中にある私有地の森を自然観察候補地および活動拠点の場として借用し、「ゆるむしの森」と名付けて、まずは調査活動を開始しました。森と言っても、休耕田に自然木が生え始めて10年に満たない亜高木・灌木の森と草地であり(写真1, 2)、約 0.9 haの小さなエリアです。

今日、メンバー数人で初めて本格的に視察・調査に入りました。

↓写真1

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↓写真2

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視察してわかったことは、この森はそれぞれハンノキ、アキニレ、竹林(メダケ)、および混成木で構成される4つの林のエリアがあることです。部分的にエノキ、ムクノキ、ヤナギ類、クワなども多く見られました。また、クヌギ、コナラ、アラカシ、シラカシケヤキ、イヌシデ、オニグルミ、イロハモミジ、クスノキネズミモチ、カキノキなどの亜高木、低幼木もあることがわかり、これらが全て休耕田に短期間で生えてきた自然木であることを考えると驚きです。一つの森林生態系形成の初期段階という意味で、非常に興味深く感じました。

森の間には田んぼや畑があり(写真3)、平野のど真ん中にありながらいわゆる里地の風景が展開されている印象を受けました。

↓写真3

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森の直ぐ傍には小川(用水路)があり、水生生物の環境としても期待できることがわかりました。小川沿いは、地元の農家の方が植えたムクロジ Sapindus mukorossiムクロジ科)もありました。

森の中はまだ人が入りにくい状態なので、これから、観察路の確保のために随時選別・伐採を行ない、調査を続けながら徐々に整備をし、自然観察園としての開設を目指していきます。

今日、観察した昆虫については別ページに記載します(→ゆるむしの森ー初めての生き物観察)。

             

カテゴリー:日記・その他

カテゴリー別記事

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樹木と草本

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ゆるむしの森に見られる樹木やその他の植物の観察記録です。

2023年↓

  2023.05.20 5月の白い花ースイカズラとヒメウツギ

  2023.04.04 春の若葉ー2023

2022年↓

  2022.10.22 秋の下草−2

  2022.10.19 秋の下草

  2022.10.08 ウマノスズクサ

  2022.10.04 10月のゆるむしの森ー低幼木を中心に

  2022.10.04 10月のゆるむしの森ー樹木を中心に

  2022.04.26 クヌギとコナラ

2021年↓

  2021.10.27 森の中の幼木

  2021.05.14 5月初旬の樹木観察

  2021.04.23 4月の樹木観察

                

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生き物観察

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チョウを中心とする昆虫観察、そのほかの生き物の観察を記しています。

2024年↓

  2024.04.14 春はシロチョウの季節

2023年↓

  2023.10.15 秋はキチョウの最盛期

  2023.10.03 9月のチョウ-2023

  2023.09.10 ジャコウアゲハの産卵

  2023.09.02 ゴマダラチョウの産卵

  2023.08.27 8月のチョウ–2023

  2023.08.07 イチモンジセセリとオオチャバネセセリ

  2023.07.30 7月のチョウ−2023

  2023.07.05 セセリチョウとジャノメチョウ

  2023.06.27 6月の虫-2023:甲虫類を中心に

  2023.06.22 6月のチョウ–2023

  2023.05.26 5月の蝶−タテハチョウを中心に

  2023.04.24 ミドリシジミの幼虫-その2

  2023.04.19 ミドリシジミの幼虫

  2023.04.13 エノキ上の Hestina 幼虫

  2023.04.10 4月上旬の蝶ーセセリチョウを中心に

  2023.03.08 今年初めてのチョウの分布調査

2022年↓

  2022.12.04 12月の越冬幼虫調査

  2022.11.19 晩秋のエノキと虫

  2022.11.08 2022年秋のチョウ−2

  2022.11.03 2022年秋のチョウ

  2022.10.15 アゲハチョウ

  2022.10.08 アカガエル

  2022.10.05 オオミズアオとオナガミズアオ

  2022.09.17 初秋のチョウ

  2022.09.08 ゆるむしの森の甲虫類

  2022.08.07 ゆるむしの森のカエル

  2022.07.31 7月のチョウ類ーその2

  2022.07.25 7月のチョウ類

  2022.06.24 ヤナギ類に群がる昆虫

  2022.06.18 初夏のシジミチョウ

  2022.05.25 クワガタムシ発生

  2022.05.18 5月のタテハチョウ

  2022.05.12 5月上旬の昆虫

  2022.05.08 ギンツバメ

  2022.04.30 4/30-今日の生き物観察・キジの夫婦

  2022.04.23 ミドリシジミ

  2022.04.17 今日のタテハチョウ

  2022.04.12 オナガミズアオ

  2022.03.16 早春の生き物観察

  2022.01.28 エノキ下の越冬幼虫調査

2021年↓

  2021.11.26 カワヤナギ上の越冬幼虫

  2021.11.20 コムラサキ亜科幼虫は冬支度

  2021.09.28 秋の昆虫ーアサマイチモンジを初目撃

  2021.06.18 アキニレとクワガタムシ

  2021.05.31 初夏の昆虫

  2021.04.16 ゴマダラチョウとアカボシゴマダラ越冬幼虫の脱皮

  2021.03.31 早春の虫

2020年↓

  2020.06.28 ゆるむしの森ー初めての生き物観察

               

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