カテゴリー:生き物観察
昨日(11月8日)は、「ゆるむしの森」のチョウの種と数の定期調査の日でした。先の記事で「2022年秋のチョウ」を紹介していますが、今回はその第二弾です。特に、この森におけるチョウと食草、蜜源植物との関係について、あらためて考えたいと思います。
森の周辺の田んぼは、稲刈りの後に再び伸びてきた穂もすっかり刈り取られていて晩秋の様相です。森全体はまだ紅葉にはちょっと早いです。
先の記事でも何度となく紹介していますが、森の草地部分に生えたセイタカアワダチソウやコセンダングサに、依然として多数のキタテハが群がっていました(写真1、2)。
↑写真1 セイタカアワダチソウで吸蜜するキタテハ Polygonia c-aureum(1)
↑写真2 セイタカアワダチソウで吸蜜するキタテハ(2)
この森で秋にキタテハが大量に見られる理由の一つは、蜜源植物としてのセイタカアワダチソウ、センダグサ類、アザミ類などの花がたくさん咲いていることです。花にチョウが訪れていれば、それだけ私たちの目に触れる機会は多くなります。おそらく、これらの植物から空中に放出される大量の誘因物質が、チョウたちを誘き寄せているのでしょう。
キタテハが大量に発生する理由はもちろん食草の量にあります。森の中や周辺には、幼虫の食草となるカナムグラが豊富にあります(写真3)。アサ科カラハナソウ属のつる性植物(一年草)で、茎から葉柄にかけて下向きの小さな鋭い棘があり、触るとザラザラして痛いです。
↑写真3 カナムグラ Humulus japonicus
写真4はカナムグラの実です。ちなみに、類縁種で葉の形が似ているセイヨウカラハナソウ(オランダ語でホップ)の雌花(毬花)は、ビールの主要な原料の一つです。
↑写真4 カナムグラの実
キタテハと並んでタテハチョウ亜科の普通種としてアカタテハやヒメアカタテハが知られていますが、この森ではキタテハと比べると目撃回数ははるかに少ないです。その理由はやはり食草の量にあると思われます。たとえば、アカタテハ幼虫の食草はイラクサ科多年草のカラムシやヤブマオですが、森内および周辺を探しても、きわめて局所的にしか生えていませんでした。ヒメアカタテハの食草であるヨモギもやはり少ないです。
アカタテハは、まれにカナムグラやケヤキも食べると言われていますが、あくまでも代用食程度のものでしょう。
写真5は、森の一角にわずかに生えているヤブマオです。
↑写真5 ヤブマオ Boehmeria japonica
果実が多数集まり、球状になって隙間なく連なる特徴があります(写真6)。
↑写真6 ヤブマオの果実
カラムシになると森の中には見当たらず、近くの雑木林の縁まで行ってやっと見つけることができました(写真7)。
↑写真7 カラムシ Boehmeria nivea var. nipononivea
果実はやはり球状に固まってつきます(写真8)。
↑写真8 カラムシの果実
キタテハやシロチョウの仲間を除いて、この時期目撃できるチョウの多くは、発生ピークを過ぎて翅が破損しているものが多いです。写真9はツマグロヒョウモンで、翅が痛んでいます。
このチョウの食草はスミレ類ですが、外来のパンジーやビオラと呼ばれる園芸種も食べます。森内にはタチツボスミレやスミレが所々に生えていますので、発生を支えていると思われます。
↑写真9 ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius ♂
写真10はヒメジャノメで、やはり翅が破損しています。めっきり数が減り、この日はわずか1頭のみでした。幼虫の食草は、ススキ、イネ、チヂミザサなどの単子葉イネ科植物で、この森では食べ物に困ることはありません。
↑写真10 ヒメジャノメ Mycalesis gotama
アキニレの森の縁に生えているセイタカアワダチソウにムラサキシジミがいました(写真11)。このチョウの幼虫はブナ科の樹木の葉を食べますが、この森には隣接する神社にシラカシの高木があるものの、ブナ科樹木はもっぱら低幼木しかありません。そのせいか目撃頻度は少ないです。
↑写真11 セイタカアワダチソウにとまるムラサキシジミ Narathura japonica
セイタカアワダチソウで見るシーンは少ないので、吸蜜しているかどうか、近づいてみたら、ちゃんと口吻を伸ばしていました(写真12)。
↑写真12 吸蜜中のムラサキシジミ
この個体はアキニレの葉の上に移動し、翅を広げ始めたので、シャッターチャンスと思ってデジカメのズームを伸ばしましたが、きちんと焦点を合わせる前に飛び去ってしまいました。撮れたのはボケボケの写真のみ(写真13)。
↑写真13 アキニレの葉上のムラサキシジミ
森の南側には、コシロノセンダングサの群生が見られ(写真14)、シロチョウ、シシミチョウ、セセリチョウの仲間がたくさん訪れていました。
↑写真14 コシロノセンダングサ Bidens pilosa var. minor の群生
この花で吸蜜していたチョウで最も多かったのが、チャバネセセリです(写真15)。
↑写真15 コシロノセンダングサで吸蜜するチャバネセセリ Pelopidas mathias
こちらは、ミズキの葉の上にとまっている個体です(写真16)。
↑写真16 ミズキの葉上のチャバネセセリ Cornus controversa var. controversa
成虫はもうほとんどいませんが、この時期、エノキの低幼木にはアカボシゴマダラの越冬型幼虫がいっぱいいました(写真17)。
↑写真17 エノキ幼木上のアカボシゴマダラHestina assimilis assimilis 越冬型4齢幼虫
と思ったら、終齢(5齢)幼虫もいました(写真18、19)。これから蛹になり羽化するのでしょうか。それともこのまま越冬に入るのでしょうか。
↑写真18 アカボシゴマダラ5齢幼虫(1)
↑写真19 アカボシゴマダラ5齢幼虫(2)
ゆるむしの森周辺のケヤキ高木はもう紅葉に入っていますが、森の木々も部分的に色付いてきました。その中で、カキノキは真っ赤な大きな葉を見せていました(写真21)。
↑写真20 カキノキ Diospyros kaki の紅葉
ちなみに写真21左の白いテープで囲んだ区域は、タチツボスミレが群生している場所です。踏みつけないように囲いをしてあります。
まもなく本格的な紅葉の森になるでしょう。
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