ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

アゲハチョウ

カテゴリー:生き物観察

私たちにとって最も馴染みが深いチョウの一つと言えば、アゲハチョウ(ナミアゲハ、アゲハチョウ科)ではないでしょうか。何と言ってもチョウのなかでも最も大きい翅をもつ部類であり、発生数も圧倒的に多いので目立つ存在です。これは、幼虫の食草がミカン科というありふれた植物であるためであり、緑の少ない都会の真ん中から山地まで、様々な環境で見ることができます。日本では北海道から沖縄まで分布しています。

あまりにも普通で見過ごしがちですが、翅のデザインはけっこう複雑で、かつとても美しいです。類縁種であるキアゲハとともに、後翅の縁の黒地に青い斑点とオレンジの斑点、および尾状突起が特徴的です(写真1)。
写真1  アベリアの花にとまりながら交尾中のアゲハチョウ Papilio xuthus(2022年9月12日、千葉県柏市

「ゆるむしの森」でも普通に見られる種ですが、写真撮影ができる機会はそれほど多くはありません。それはこのチョウの花蜜食性にあります。ゆるむしの森では、アゲハチョウが吸蜜できる花が時期によっては少なく、目の前を素早く飛び去っていくだけなので、シャッターチャンスがなかなかありません。ゆっくり観察できるのは、もっぱら森の周辺の民家の庭先や畑地の花壇などです。

とはいえ、いまの時期であれば、ノハラアザミで吸蜜する姿が見られます。森の中にも幼虫の食草であるミカン科の低木が生えており、ときおり成虫の産卵や幼虫を見ることができます。10月に入ったこの時期でも幼虫が見られます。写真2−4はサンショウの枝上の終齢幼虫です。幼虫が発生する度にサンショウの葉が食い尽くされ、丸裸にされてしまいます。

↑写真2  サンショウの上のアゲハチョウの終齢幼虫(2022年10月11日)

↑写真3

↑写真4

アゲハチョウ科の幼虫を触ったことがある人なら経験があると思いますが、頭の先からオレンジ色のヘビの舌のような形のものを出すことがあります。これは、オスメテリウム(臭角、osmeterium)と呼ばれている外分泌器官で、普段は頭部内部に収納されていますが、幼虫が危険を感じると反り返りながら、ニューッと出してきます。それと同時に鼻につく何とも言えない異臭を発します。この臭いが手につくとちょっと水洗いしただけでは落ちません、

オスメテリウムは、鳥、クモ、肉食昆虫などの捕食者に対する防御器官としての役割があり、頭部にある大きな目のような斑点(写真2、3参照)とともに相手を驚かすのに役立っています。オスメテリウムから出る臭いは、捕食者に対しては悪臭であり、十分な忌避効果があります。

この臭いは、モノテルペン、セスキテルペン、短鎖脂肪酸エステルの混合物であることが分かっていますが [1, 2]。臭いとしては後2者の貢献が大きいと思われます。短鎖脂肪酸としては酢酸やイソ酪酸が含まれています。酢酸はいわゆるお酢の臭いであり、イソ酪酸は形容すればウンコの臭いです。イソ酪酸がメチル化あるいはエチル化されてエステルになると、臭いにフルーティー感が出てきます。

これらが混ざったものと考えれば、幼虫に触ったことがない人でも、オスメテリウムの臭いが想像できるのは?と思います。

引用文献

[1] Chow, Y. S. & Tsai, R. S.: Protective chemicals in caterpillar survival. Experientia 45, 390–392 (1989).  https://link.springer.com/article/10.1007/BF01957490

[2] 本田計一: アゲハチョウ類の化学生態学. 日本農芸化学会誌 64, 1745–1748 (1990). https://doi.org/10.1271/nogeikagaku1924.64.1745

            

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