ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

セセリチョウとジャノメチョウ

カテゴリー:生き物観察

セセリチョウ科やジャノメチョウ亜科(タテハチョウ科)のチョウは、翅が茶色中心で割と地味ですが、希少種も多いです。ゆるむしの森には、埼玉県の準絶滅危惧種 [1] も含めて多くの希少種が生息しています。これまで、セセリチョウ科8種ジャノメチョウ亜科6種の生息を認めています。おそらく、休耕田跡に発生した森と草地のバランスがよく、幼虫の主な食草であるイネ科植物が豊富にあるためと思われますが、この小さなエリア(約 1 ha)にこれだけの種が集中して生息している理由の解明は、これからの調査研究に負うところが大きいです。

7月になると例年現れる種数が増え、この森では両分類群のチョウが最も個体数が多くなります。ここで、7月初頭に見られたいくつかの種を紹介します。

写真1はダイミョウセセリ(チャマダラセセリ亜科)です。森の東側にあるアキニレの林の中でグルグル飛んでいるところを発見し、とまったところで本種だとわかりました。本種の目撃頻度はそれほど高くはありませんが、5月ではこの森で最も多く見られるセセリチョウになります。

写真1  アキニレの林間にいたダイミョウセセリ Daimio tethys(2023年7月4日)

セセリチョウ亜科の種の幼虫がイネ科植物を食草とするのに対し、ダイミョウセセリはヤマノイモ科植物を食草とします。

セセリチョウ亜科のなかでは、イチモンジセセリが最も普通の国内種の一つです(写真2–3)。この森では、例年初夏にはあまり見られず、7月から本格的に姿を現します。写真2の個体は、黄土色の印象が強く、この時期に羽化したものだとわかります。近づいてよく見ないと裏後翅の一文字の白点がはっきり確認できません。

写真2  イチモンジセセリ Parnara guttata(2023年7月4日)

写真3イチモンジセセリも黄土色が強く、羽化直後のものでしょう。

写真3  上記とは別個体のイチモンジセセリ(2023年7月4日)

イチモンジセセリと並んで普通種として一般に知られているのがチャバネセセリ(セセリチョウ亜科)です(写真4)。この種も7月から多くなります。裏翅の白点が小さくて見づらいので、近づいてよく見ないと同定が容易でありません。

写真4  アカツメクサにとまっていたチャバネセセリ Pelopidas mathias(2023年7月4日)

時期的に、上記2種よりも早く、多く見られるのがオオチャバネセセリ(セセリチョウ亜科)です(写真5–6)。6月半ばから多く見られるようになり、この森ではいま最も目撃頻度の高いセセリチョウになります。

写真5  翅が開き気味のオオチャバネセセリ Polytremis pellucida(2023年7月4日)

オオチャバネセセリは全国的に個体数を減らしている種であり、埼玉県では準絶滅危惧(NT2)として指定されていますが [1]、この森では多産するセセリチョウの一つです。全国的な個体数減少の主因はイネ科草地やササ・メダケ林の縮小にあると思われますが、この森での幼虫の食草の嗜好性と範囲が詳細にわかれば、それを読み解くヒントになるかもしれません。

写真6  翅を開いたオオチャバネセセリ(2023年7月4日)

ゆるむしの森において、オオチャバネセセリと比べて目撃する機会が少ないのが、ミヤマチャバネセセリ(セセリチョウ亜科)です(写真7–8)。例年4月に発生し、2化目のものが7月から見られるようになります。裏後翅中央にある白点が目印で、一目で本種だと同定できます。

写真7  ミヤマチャバネセセリ Pelopides jansonis(2023年7月4日)

ミヤマチャバネセセリも全国的な個体数減少が懸念されているセセリチョウ種です。埼玉、千葉県内ではオオチャバネセセリよりもむしろ個体数が少ない印象を受けます。千葉県では「C 要保護生物」に指定されています [2]

写真8  上記とは別個体のミヤマチャバネセセリ(2023年7月4日)

上記のセセリチョウ以外ではコチャバネセセリも目撃できましたが、残念ながら写真に収めることができませんでした。例年7月に2化目の発生を見るギンイチモンジセセリは、まだ姿を現していません。

写真9以下は、この時期に見られるジャノメチョウ亜科の種です。ジャノメチョウ(写真9-10)は昨年1回、1頭の目撃だったので、偶産と考えていました。ところが今年の6月下旬から見られるようになり、7月になって複数頭を目撃できるようになったことで一応生息リストに加えました。今後、幼虫の発生と「食草は何か」ということを確認しなければいけません。

写真9  セイタカアワダチソウにとまるジャノメチョウ(2023年7月4日)

写真10  アキニレにとまるジャノメチョウ(2023年7月4日)

ジャノメチョウは埼玉県の準絶滅危惧種(NT2)であり [1]、県東部においては極めて稀な種です(県内周辺の市町では絶滅、あるいは記録がない)。筆者自身も、さいたま市久喜市加須市などの主な緑地で探してみましたが、これまで見たことがありません。ただ春日部市内の緑地で、2年前に、一度目撃したことがありますし、隣接する野田市(千葉県)では割と多く発生する複数の場所があります。

写真11–12はヒメウラナミジャノメです。全国的に最も普通のジャノメチョウの一つです。ゆるむしの森では、この時期ヒカゲチョウとともに最もよく見ることができます。この森では、数年前までは稀にしか見ることができませんでしたが、年を追って増えているようで、今年は普通に見ることができるようになりました。森や草地の成長とともに、増えている感じがします。この種も食草は何かということを確認する必要があります。

写真11  ジュズダマにとまるヒメウラナミジャノメ Ypthima argus(2023年7月2日)

この時期のヒメウラナミジャノメは2化目の個体だと思われます。

写真12  ジュズダマにとまるヒメウラナミジャノメ(2023年7月4日)

ジャノメチョウのなかでは、これから追ってヒメジャノメやサトキマダラヒカゲが増えてくるでしょう。

引用文献

[1]  埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

[2] 千葉県レッドリスト動物編 2019年改訂版 https://www.bdcchiba.jp/wp-content/uploads/2022/03/redlist2019.pdf

            

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