春はシロチョウの季節
カテゴリー:生き物観察
2024年の春を迎えました。今年は2月に20℃を超える日があったり、3月には低温や雨の日が続いたりで、日本の四季もメリハリがだんだんとなくなっている気もします。それでも春になって、ゆるむしの森でもチョウの活動が少しづつ活発になってきました。
春に最も多く見られるチョウと言えば、シロチョウ科の種です。暖かくなってくると、越冬した蛹から羽化した成虫が飛翔するようになります。また一部の種では成虫で越冬しますので、冬の暖かい日には成虫の姿を目撃することができます。
写真1–4に、シロチョウ科の代表格であるモンシロチョウを示します。1年で最も早く現れる種の一つです。写真1はメダケの落ち葉の上で翅を休める個体です。
↑写真1 モンシロチョウ(024年3月11日)
4月上旬までは、あちこちでアブラナ(ナノハナ)が咲き誇っていて、吸蜜する姿がよく見られます(写真2)。
↑写真2 アブラナで吸蜜中のモンシロチョウ(024年4月2日)
アブラナの葉上で後尾中の2匹もいました(写真3)。
↑写真3 交尾中のモンシロチョウ(2024年4月2日)
写真4は、カラスノエンドウにとまって翅を休める個体です。
↑写真4 モンシロチョウ(2024年4月11日)
キチョウ(キタキチョウ)は成虫で越冬します。写真5は越冬明けの♀の個体です。
↑写真5 キチョウ(2024年3月15日)
モンシロチョウと比べると個体数は少ないですが、ツマキチョウも見られます。年1回、春だけに発生する種で、春の妖精と呼ばれています(写真6–8)。アブラナで盛んで吸蜜していました。
↑写真6 ツマチョウ(2024年4月13日)
↑写真7 ツマチョウ(2024年4月13日)
↑写真8 ツマチョウ(2024年4月13日)
モンキチョウも春先からよく見られるシロチョウです(写真9、10)。
↑写真9 モンキチョウ(024年4月2日)
写真10は、タネツケバナが繁茂している田植え前の水田での、♂と♀の求愛行動です。
↑写真10 モンシロチョウ(024年4月2日)
ゆるむしの森には、上記4種の他に、スジグロシロチョウが見られますが、個体数が少なく、この春まだ写真に収めることができていません。
シロチョウ科のチョウ以外では、シジミチョウが早く姿を現します。この時期見られるものはベニシジミ(写真11、12)とツバメシジミ(写真13、14)です。
↑写真11 ベニシジミ(024年4月2日)
↑写真12 ベニシジミ(024年4月13日)
ツバメシジミは飛んでいる時はヤマトシジミと紛らわしく、ほとんど見分けがつきません。とまった時の尾状突起と翅裏の橙色の斑点が、同定の目印です。この時期、ゆるむしの森ではヤマトシジミよりも圧倒的に多く発生します。
↑写真13 ツバメシジミの♀(2024年4月13日)
↑写真14 ツバメシジミ(2024年4月13日)
4月上旬までに確認したチョウは、この他に、アゲハチョウ、キアゲハ、キタテハ、ルリタテハ、ヒオドシチョウの5種です。少し離れたところにある水田跡にはギンイチモンジセセリが飛んでいました。
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メダケの役割を考慮した管理
カテゴリー:日記・その他
「ゆるむしの森」にはメダケの林があります。メダケは繁殖力が強く、地下茎を通してどんどん周囲に拡大していきます。ちょっと管理を怠ると、森を侵食し、周囲の農道にもチニョキニョキと出てきますので、適宜伐採管理が必要です(→メダケの伐採管理)。
昨年の秋、メダケ林の 40% ほどを伐採しましたが、伐採したものはそのままにしておいたので、昨日除去管理にいきました。写真 1 は伐採した側から見たメダケ林、写真 2 は除去作業途中を示します。
↑写真1(2024年3月11日)
写真 2 の右に見えるのはアキニレの林です。
↑写真2(2024年3月11日)
人間側から考えたら厄介者のメダケですが、大きな役割も持っています。その一つは生物多様性を支える重要な植物の一つだと言うことです。この森では、埼玉県の準絶滅危惧種(NT2)オオチャバネセセリやコチャバネセセリ、その他のセセリチョウ科、およびジャノメチョウ亜科のいくつかのチョウ種の重要な食草になっています。また、ゆるむしの森は常緑樹に乏しいですが、年中常緑を保つメダケ林は、いくつかの成虫が越冬する貴重な場所になっています。
もう一つのメダケ林の重要な役割は、クールアイランド機能を持つということです。つまり、周囲よりも気温を低くする冷却効果があり、また極寒時では逆に周囲よりも暖かく保つ温度緩衝作用を持ちます。
図1は、昨年の酷暑日におけるメダケ林の冷却効果の実例を示したものです。この日、最高気温は37℃を超えていましたが、14時のメダケ林の前は33.2℃(相対湿度64%)でした。お隣のアキニレの林に移動すると若干気温は上がり、34.5℃(相対湿度56%)になりました。さらに、林を抜けて農道に出ると、日陰で37.4℃(相対湿度50%)を示しました。そこからメダケ林に戻って測ると、また33.0℃に(相対湿度63%)なりました。
図1. ゆるむしの森のメダケ林および周辺の場所による気温変化(2023年8月51日)
図2は、昨日測定した結果ですが、メダケを伐採した場所と反対側の伐採していない場所での気温を比較したものです。伐採していないメダケ林の前では気温が12.2℃、相対湿度が45%であったのに対し、伐採した場所に移動すると、気温が14.7℃と高くなり、逆に相対湿度は34%に下がりました。さらにしばらくすると、相対湿度は27%にもなりました(データ未表示)。つまり、図1の結果からもわかるように、メダケ林は、冷却効果および保湿効果があるということがわかります。
図2. メダケ林および伐採後の場所の気温と相対湿度の比較(2024年3月11日)
この森のメダケ林は、おそらく森全体を冷やし、保湿する機能を伴って森の環境に大きな影響を及ぼしていると思われます。というわけで、酷暑時での森の調査、管理作業の際には、休憩は決まってメダケ林の前でということになっています。メダケ林を通して、あるいは周囲から流れてくる風は、自然の冷風になります。この林がないと、酷暑下の作業もままならないでしょう。
このようにして考えると、メダケ林は人間の生活にも恩恵を与えるということにもなります。ゆるむしの森周辺の住居環境にも、気温、湿度など多少なりとも影響を及ぼしていると思われます。上記したように、昨年秋、侵食・拡大防止のためにメダケ林をかなり伐採しましたが、さて、この夏どういうことになるでしょうか。
今回の伐採でこの夏のデータがとれると思われますので、メダケ林について生物多様性維持、クールアイランド機能という正の面、および侵食、景観の悪化という負の面について、これからの伐採管理をどのようにしていくべきか、ある程度の答えが出てくると思います。
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ゆるむしの森の植物一覧
ゆるむしの森で見られる植物(樹木、草本)を以下に一覧します。現在まで、115種を確認しています。
ウマノスズクサ
カテゴリー:チョウの食草と食樹
ウマノスズクサ Aristolochia debilis(ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属) ●食草とする幼虫のチョウ種:ジャコウアゲハ(アゲハチョウ科)
つる性の多年草で、川土手、道ばた、林縁などいたるところに生えます。茎は長さ 2–3 m になり、よく分枝し、他の植物などに絡みつく性質がありますが、細いので折れやすく、先の方はちぎれやすいです。地上部は毎年枯れますが、地下茎がしっかり残っていて、すぐに芽を出します。ゆるむしの森では少なくとも2カ所群生しています。
ウマノスズクサは独特の臭気をもち、アリストロキア酸という毒性の強いアルカロイドを含みます。ジャコウアゲハの幼虫はこの葉や茎を食べて毒を溜める性質があり、鳥などの捕食から身を守っています。
ジャコウアゲハの幼虫は茎を食いちぎる性質があり、葉が落ちていくので、小さな株だとすぐに枯れてしまいます。そのため、複数の幼虫が同時に成長するためには、割と豊富な量のウマノスズクサが必要です。ジャコウアゲハは年 3〜4 回発生し、11 月まで幼虫がみられます。
関連記事:
2022.10.08 ウマノスズクサの観察
2023.09.10 ジャコウアゲハの産卵
カテゴリー:チョウの食草と食樹
メダケ
カテゴリー:チョウの食草と食樹
メダケ Pleioblastus simonii(イネ科メダケ属) ●食草とする幼虫のチョウ種:タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科のヒメジャノメ、ヒカゲチョウ、クロヒカゲ、サトキマダラヒカゲ、クロコノマチョウ、セセリチョウ科のイチモンジセセリ、チャバネセセリ、オオチャバネセセリ、コチャバネセセリ、キマダラセセリ
多年生常緑ササの一種で、高さは 3〜8 m になります。和名は「タケ」ですが、いわゆるササの一つです。湿気を好み、河川敷や海辺の丘陵などで群落を作ります。水田地帯の民家付近に植えられていたものが野生化し、とくに休耕田で群生する場合があります。ゆるむしの森にまとまって存在するメダケ林はこの例です。
伐採管理を怠るとまたたく間に広がっていく厄介者ですが、真夏のメダケ林の傍や中では、周辺の気温より 数度低くなるなど冷却効果があります。ゆるむしの森では、メダケ林が森全体の保湿と冷却に貢献していると考えられます。
ゆるむしの森での多様なジャノメチョウ亜科、セセリチョウ科のチョウの生息は(上記ではクロヒカゲのみ生息せず)、メダケ林に支えられています。
カテゴリー:チョウの食草と食樹
シラカシ
カテゴリー:チョウの食草と食樹
シラカシ Quercus myrsinifolia(ブナ科コナラ属) ●食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:ムラサキシジミ(シジミチョウ科)
常緑高木で、高さ 20 m ほどになります。いわゆるカシ類の一種で、秋にドングリが生ります。樹皮は灰茶褐色で、平滑または縦に並んだ皮目があり、ザラザラしていますが、割れ目はありません。和名は材が白いことに由来します。
ムラサキシジミ以外では、アカシジミが食樹とすることがありますが、この森での目撃例はまだありません。
ゆるむしの森のコア領域にはまだ低木しかありませんが、周辺の屋敷林や隣接する神社境内に高木が点在します。周年を通じて、葉上にムラサキシジミの成虫がとまっている姿を見ることができます。
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チヂミザサ
カテゴリー:チョウの食草と食樹
チヂミザサ Oplismenus undulatifolius(イネ科チヂミザサ属) ●食草とする幼虫のチョウ種:タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科のヒメジャノメ、コジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、クロコノマチョウ、セセリチョウ科のキマダラセセリ
イネ科の多年草で、葉の形がササに似ていて、波をうつような縮んだようなしわがあることからこの名前があります。林の中の少し陽がさすような場所に発生することが多く、地面に這うように広がって生育します。秋に花が咲き、茎の一部が立ち上がって高さ 30 cm ほどの穂になります。開花時の雌しべの柱頭の羽毛状の毛や紫色の葯が目立ちます。
上記のチョウ種のなかで、コジャノメはまだ「ゆるむしの森」では目撃していません。
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