カテゴリー:生き物観察
「ゆるむしの森」では、例年、3月から12月にかけてチョウの分布の定量調査を行っています。週に一度、晴天で気温13℃以上の日を選び、チョウの成虫の種類と数を記録しています。
この調査は、トランセクト調査 [1] という方法に準じて行なっています。すなわち、行程 1 kmの観察・調査順路を決め、それを10のエリアに分け、エリアごとに時速 2 km歩行の進行方向の 5×5×5 mの空間内に見られたチョウの種と数を記録していきます。別ページ(ゆるむしの森のチョウ)に記したチョウの記録は、このような方法で得られたものです。
昨日は今年初めてのチョウの調査を行いました。快晴で風もほとんどなく、絶好の調査日よりでしたが、まだまだ初春ということで目撃できたチョウは少数でした。それでも、キタテハ10頭、モンシロチョウ6頭、モンキチョウ1頭、未確認種1頭を観察することができました。キタテハは成虫で越冬する種で、冬や初春でも暖かい日にはよく見ることができます。
合わせて、森を観察し、草刈りとゴミの除去を行ないました。この森のメインであるハンノキの森はまだ冬の様相を呈していますが(写真1)、ときおり樹間を流れる風は春の匂いがしました。
写真1 ハンノキの森(2023年3月7日)
写真2は、トランセクト調査の最初のエリア(区分1)の風景です。
写真2
この日はいくつかの種の越冬幼虫や越冬卵の観察も行ないました。一つはエノキを食樹とするゴマダラチョウの越冬幼虫の観察です。写真3はゆるむしの森の傍に生えているエノキ高木の一つです。このエリアでは最も大きく、樹高は20 mに達します。
写真3 ゆるむしの森の傍のエノキ高木
昨年12月初頭の調査(→12月の越冬幼虫調査)では、このエノキの根元から6頭の越冬幼虫を見つけることができました。しかし、その際にはまだ枝上に沢山の葉が残っており、まだ根元に降りていない幼虫がいることも予想されました。そこであらためて根元の落葉をめくってみると続々と幼虫が出てきて、その数は20頭に達しました(写真4)。
写真4 ゴマダラチョウの越冬幼虫
森の中のカワヤナギやマルバヤナギなどのヤナギ類は既に芽吹いていました。そろそろコムラサキの越冬幼虫が起き出す時期です。幹上にいる幼虫をみると少し膨らんでいて、脱皮への準備を整えている様子でした(写真5)。
写真5 カワヤナギ幹上のコムラサキの越冬幼虫
今年もハンノキの幹上、枝上のミドリシジミの卵を探してみましたが、見つけることができませんでした。一般に大人の身長くらいの高さの幹上に産むことが多いですが、この森のハンノキは割と幹が大きいので、もっと高い位置や枝上に産んでいる可能性もあります。引き続き探索を続けたいと思います。
一方で、オナガミズアオの卵の殻は沢山見つけることができました(写真6)。4月になれば、きれいな成虫の姿を見ることができるでしょう。
写真6 ハンノキ幹上のオナガミズアオの卵の殻
引用文献
[1] 日本チョウ類保全協会(訳):チョウ類のトランセクト調査ーチョウのモニタリングマニュアル (Sevilleja, C. G. et al. Butterfly Transect Counts: Manual to monitor butterflies. Report VS2019.016, Butterfly Conservation Europe & De Vlinderstichting/Dutch Butterfly Conservation, Wageningen, 2019). https://butterfly-monitoring.net/sites/default/files/Pdf/Manual/Butterfly%20Transect%20Counts-Manual%20v2Japanese.pdf
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