カテゴリー:生き物観察
2023.06.25更新
梅雨の時期になると、晴天が少なくて、チョウ観察ができる日も少なくなります。ここでは、6月の数少ない晴れた日を選んで観察できたチョウ類を紹介します。
5月のチョウについてはタテハチョウを中心に既に記していますが(→5月の蝶−タテハチョウを中心に)、6月に入ると「ゆるむしの森」では例年個体数が少なくなります。種数も若干減るようです。理由は、4-5月に発生した1化目の個体が、ちょうど寿命で消える時期になるためです。それでも6月にならないと見られないミドリシジミなどの特別な種もいて、それらを目当てにできる楽しみな時期でもあります。
まずはアゲハチョウ科のチョウです。アゲハをはじめとして比較的多くの個体を見かけることができますが、ほとんどの種が林の間や草地の上を飛び去っていくだけなので、写真に収められる機会はなかなかありません。写真1はアオスジアゲハで、葉上にとまった数少ない個体を撮ることができました。
↑写真1 アオスジアゲハ Graphium sarpedon(2023年6月21日)
写真2–5はコムラサキです。本種は5月に1化目の個体が発生し、6月に入ると個体数は少なくなりますが、それでも他のコムラサキ亜科の種に比べると、比較的多く見ることができます。しかし、見かける個体のほとんどが翅が痛んでいて、発生から時間が経っていることを感じさせます。
↑写真2 コムラサキ♂ Apatura metis(2023年6月4日)
↑写真3 コムラサキ♀(2023年6月4日)
↑写真4 コムラサキ(2023年6月17日)
コムラサキと同じ発生リズムをもつのがアカボシゴマダラです(写真5–7)。5月は1化目(主に白化型)の個体が乱舞する光景を目にすることができますが、6月に入ると急に個体数が減ってきます。6月も半ば過ぎになると目撃は稀です。
↑写真5 アカボシゴマダラ Hestina a. assimilis(2023年6月4日)
写真6、7の個体はやはり翅が痛んでいて、羽化後時間が経っていることを伺わせます。
↑写真6 アキニレの樹液を吸いにきたアカボシゴマダラ(2023年6月7日)
↑写真7 ハナムグリといっしょに樹液を吸うアカボシゴマダラ(2023年6月7日)
写真8はヒメアカタテハです。普通種ですが、ゆるむしの森では、目撃頻度は多くなく、むしろ珍しい部類に入ります。食草のヨモギなどが少ないなどの理由によるものでしょう。
↑写真8 ヒメアカタテハ Vanessa cardui(2023年6月17日)
キタテハ(写真9-10)はタテハチョウ亜科のなかで最も普通に見ることができる種です。しかし、初春と秋が目撃の最盛期で、6月はやはり少なくなります。
↑写真9 コクワガタDorcus rectus の♀と思われる甲虫類といっしょのキタテハ Polygonia c-aureum(2023年6月4日)
↑写真10 キタテハ(2023年6月16日)
写真11はツマグロヒョウモンです。草地の間に生えているセイタカアワダチソウにとまっているところを撮りました。南方系のチョウで、地球温暖化とともに北上化している種の代表格です。
↑写真11 ツマグロヒョウモンArgyreus hyperbius(2023年6月21日)
ジャノメチョウ亜科の種ではヒメジャノメ(写真12-14)が最も普通に見られますが、6月にはやはり見る機会が減ります。下旬にもなるとほとんど姿を見かけなくなります。
↑写真12 ヒメジャノメMycalesis gotama(2023年6月4日)
↑写真13 ヒメジャノメ(2023年6月4日)
↑写真14 ヒメジャノメ(2023年6月7日)
この森でヒメジャノメと並んでよく見られるジャノメチョウ亜科の種がサトキマダラヒカゲです(写真15–16)。6月には個体数が減り、下旬になるとさらに見かけなくなります。
↑写真15 サトキマダラヒカゲ Neope goschkevitschii(2023年6月4日)
↑写真16 サトキマダラヒカゲ(2023年6月7日)
ヒメジャノメやサトキマダラヒカゲとは対照的に、6月から見る機会がグンと増えるのがヒカゲチョウです(写真17–18)。いま林間を多数の個体が飛んでいます。
↑写真17 ヒカゲチョウ Lethe sicelis(2023年6月17日)
↑写真18 ヒカゲチョウ(2023年6月17日)
イチモンジチョウ亜科のチョウは6月に入ってほとんど見られなくなっていましたが、6月25日に突如きれいな翅のアサマイチモンジを複数見かけました(写真19-20)。2化目の個体でしょうか。
↑写真19 アキニレにとまるアサマイチモンジ Limenitis glorifica (Ladoga glorifica)(2023年6月25日)
↑写真20 アサマイチモンジ(2023年6月25日)
写真21はベニシジミです。最も普通に見られるシジミチョウの一つです。今の時期は夏型で、翅の色が黒っぽくなっています。
↑写真21 ベニシジミ Lycaena phlaeas(2023年6月21日)
6月になって見られる種の代表がミドリシジミです(写真22–25)。昼間はハンノキの林の葉の上でジッとしていることが多いので、目を凝らして探さないといけませんが、今年の6月は、訪れた全ての日で目撃することができました。雄雌の確認はしましたが、残念ながら翅を開いた状態では撮ることができませんでした。雄は、文字通り、表翅が緑の光沢色(エメラルドグリーン色)ですが、雌は茶褐色 [O型]で、加えて朱色の模様が入るA型、青色が入るB型、青と朱の模様が入るAB型に分かれます。
↑写真22 ミドリシジミ Neozephyrus japonicus ♀AB型(2023年6月4日)
↑写真23 ミドリシジミ♂(2023年6月7日)
↑写真24 ミドリシジミ♀A型(2023年6月16日)
↑写真25 ミドリシジミ♀A型(2023年6月16日)
写真26はルリシジミです。普通種ですが、類縁種であるヤマトシジミやツバメシジミと比べると目撃回数は少ないです。この森では、5月から7月にかけて最もよく観察することができます。草地や地面近くを飛ぶヤマトシジミと違って、林間の比較的高い位置で飛んだり、とまったりするので、遠目からでも識別できます。
↑写真26 ルリシジミ Celastrina argiolus(2023年6月16日)
6月から見られるセセリチョウと言えば、オオチャバネセセリです(写真27–30)。全国的に個体数を減らしている本種ですが、ゆるむしの森では草地部分や農道脇に草むらで比較的たくさん見ることができます。類縁種のイチモンジセセリが、後裏翅の白点の並びが一直線であるのに対して、本種は大小の白点がジグザクになる点で識別できます。↑写真27 オオチャバネセセリ Zinaida pellucida(2023年6月17日)
↑写真28 オオチャバネセセリ(2023年6月21日)
オオチャバネセセリが全国的に個体数を減らしている原因はあまりよくわかっていません。一方で、イネ科植物が豊富なゆるむしの森で例年沢山目撃できるということは、やはり食草が多い環境(例えばススキ原やササのブッシュ)が本種の生息にとって大事だということが言えます。このような環境が全国的に急速に失われているということが、減少化の主因という気がします。
↑写真29 オオチャバネセセリ(2023年6月21日)
↑写真30 オオチャバネセセリ(2023年6月25日)
個体数は少ないですが、コチャバネセセリも目撃できました(写真31)。
↑写真31 コチャバネセセリ(2023年6月25日)
上記写真で紹介したチョウ以外で、6月(6月25日まで)に見られた種は以下のとおりです。
アゲハチョウ科:アゲハ、キアゲハ、クロアゲハ、ナガサキアゲハ
シジミチョウ科:ウラナミアカシジミ、ツバメシジミ、ヤマトシジミ
一昨年、昨年と6月に見られていたヒオドシチョウは、残念ながら今のところ発生を確認していません。
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