ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

5月の蝶−タテハチョウを中心に

カテゴリー:生き物観察

チョウと言えば、一般的に夏に多く見られるというイメージですが、第1化目の成虫が集中する5月が種数、個体数とも最も多くなる月の一つです。特に5月後半になると多くのチョウ種が見られるようになります。この時期「ゆるむしの森」で最も多く見られるチョウはタテハチョウ科の仲間です。この記事で紹介したいと思います。

5月で最も個体数が多い種の一つがコムラサキで、毎日見ることができます。幼虫の食樹となるカワヤナギやマルバヤナギなどのヤナギ類が沢山生えており、本種の発生を支えています。ただ、高速で飛翔し、比較的高いところにとまることが多いので、撮影できる機会はそう多くはありません(写真1)。

写真1  ムクノキの葉にとまるコムラサキ Apatura metis(2023年5月17日)

コムラサキは全国的に個体数を減らしている種ですが、この森での個体数の多さをみれば、狭いエリアでもヤナギ類が保全されていれば発生を維持できることを証明しています。

同じコムラサキ亜科のゴマダラチョウも比較的多く見られますが、この種もとまっているところを写真に収められる機会は少ないです(写真2)。この森では年3回発生しますが、発生サイクルはコムラサキとほぼ同じです。

写真2  アキニレの葉にとまるゴマダラチョウ Hestina persimilis japonica(2023年5月17日)

コムラサキよりもむしろ個体数が多いのではないかと思われるのが、特定外来種のアカボシゴマダラです(写真3)。この時期、白化型の個体がユラユラ飛んでいる姿を見ることができます。低い位置にも停止することが多いので、上記2種と比べると撮影できる機会は多いです。

写真3  エノキの低木にとまる白化型アカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis(2023年5月17日)

5月も半ばを過ぎると、アサマイチモンジ(イチモンジチョウ亜科)も多く見られるようになります(写真4–6)。

写真4  アキニレのトップにとまったアサマイチモンジ Limenitis glorifica (Ladoga glorifica)(2023年5月17日)

写真5  クワの葉にとまるアサマイチモンジ(2023年5月25日)

アサマイチモンジは埼玉県の絶滅準危惧2型(NT2)に指定されているとおり、分布は割と局地的ですが、発生する場所では比較的多く見ることができます。

写真6は、同じイチモンジチョウ亜科のコミスジです。この種は4月終わり頃から見ることができます。

写真6  地面で翅をやすめるコミスジ Neptis sappho(2023年5月17日)

写真7ツマグロヒョウモンです。ドクチョウ亜科のなかで、唯一発生を確認している種です。稀にミドリヒョウモンやメスグロヒョウモンを見ることがありますが、今のところ偶産(偶発的飛来)と考えています。

写真7  ツマグロチョウモン Argyreus hyperbius(2023年5月3日)

この時期、林内で目立つようになったのがジャノメチョウ亜科の種です。5月で最も個体数が多いのがヒメジャノメです。個体変化もけっこうあります(写真8、9)。

写真8  下草で休むヒメジャノメ Mycalesis gotama(2023年5月17日)

写真9  下草で休むやや大型のヒメジャノメ(2023年5月25日)

この森で稀に見られるのがヒメウラナミジャノメです(写真10、11)。目撃頻度は少ないのですが、毎年複数回見ることができるので、確実に発生しているものと考えています。

写真10  下草でやすむヒメウラナミジャノメ Ypthima argus(2023年5月25日)

写真11  上とは別個体のヒメウラナミジャノメ(2023年5月25日)

ヒメジャノメやヒメウラナミジャノメにやや遅れて見られるようになるのがヒカゲチョウ(ナミヒカゲ)です(写真12)。6月に入ると最も多いジャノメチョウになります。

写真12  ヒカゲチョウ Lethe sicelis(2023年5月25日)

ジャノメチョウは林間をよく飛んでいますが、飛ぶ際の黄土色の感じが強いのがサトキマダラヒカゲです(写真13、14)。類似種にヤマキマダラヒカゲがいますが、両種は酷似しており、個体差もあるので現場での判別は難しいです。平野部にヤマキマダラヒカゲがいることはまずないので、見かけたらサトキマダラヒカゲと思って間違いないです。

写真13  アキニレの木にとまるサトキマダラヒカゲ Neope goschkevitschii(2023年5月17日)

写真14  アキニレの木にとまるサトキマダラヒカゲ(2023年5月25日)

ゆるむしの森には、目撃頻度は少ないですが、テングチョウもいます。初春の暖かい日には越冬した成虫が見かけますが、5月に入ると1化目の個体が観察できるようになります(写真15、16)。

写真15  森の近くの神社の境内にいたテングチョウ Libythea lepita(2023年5月10日)

写真16  森の中のテングチョウ(2023年5月25日)

以下には、この時期目撃できたタテハチョウ以外の種をいくつか載せます。写真17はルリシジミです。翅が痛んだメスの個体で、ハリエンジュに産卵していました。

写真17  ハリエンジュに産卵中のルリシジミ Celastrina argiolus(2023年5月25日)

写真18スジグロシロチョウです。普通種ですが、類似種のモンシロチョウよりも薄暗いところを好むようで、開けた環境ではあまりお目にかかりません。モンシロチョウよりやや大きく、ヒラヒラと飛ぶ感じがします。林の中でモンシロチョウのような白いチョウを見たら、スジグロシロチョウということが多いです。草原や畑地が多いこのエリアでも目撃頻度は少ないです。

写真18  スジグロシロチョウ Pieris melete(2025年5月25日)

4月に沢山見られたセセリチョウの仲間ですが(→4月上旬の蝶ーセセリチョウを中心に)、5月に入ってめっきり目撃頻度が少なくなりました。その中でもダイミョウセセリは多く見られる種です(写真19)。

写真19  クヌギの葉にとまるダイミョウセセリ Daimio tethys(2023年5月3日)

チョウではないですが、この森にはチョウ目の大型の美しい蛾として、オナガミズアオが生息しています(→オナガミズアオオオミズアオとオナガミズアオ)。4月から1化目の成虫が見られるようになり、5月に入っても時々目撃できます(写真20)。

写真20  ハンノキの林の下草(オヤブジラミ)にとまっていたオナガミズアオ Actias gnoma(2023年5月25日)

写真20の個体は、オナガミズアオの特徴である前翅前縁から頭部にかけての白と紫色の二重ラインがくっきりと見えます。さらに、翅を前方向に垂れてとまるのも本種の特徴です。

6月に入れば、運がよければ、ヒオドシチョウやゼフィルス類を見ることができるでしょう。

            

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