ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

エノキ下の越冬幼虫調査

カテゴリー:生き物観察

ゆるむしの森プロジェクトでは、毎年冬になると、エノキ Celtis sinensis 下のオオムラサキ Sasakia charondaゴマダラチョウ Hestina japonica (H. persimilis japonica) の越冬幼虫調査を行っています。調査場所は、埼玉県はもとより、周囲の茨城、千葉、東京の森や雑木林のエリアです。

東京都内では、もはや山地や丘陵地まで行かないとオオムラサキは見られませんが、埼玉、茨城、千葉では平野部でもエノキが生える森が残っており、オオムラサキの生息を支えています。

写真1は、今年の冬に訪れた埼玉県内某所(平野部)の森の周囲に生えるエノキの一つを示します。この森では数十本のエノキが点在しており、毎年その多くにオオムラサキの越冬幼虫が見られます。

f:id:yurumushinomori:20220320091520j:plain↑写真1

越冬幼虫が見られるのは主にエノキ高木、亜高木です。高木下の落葉からは、オオムラサキ以外にゴマダラチョウが頻繁に検出されますが、時おりアカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis も出てくることがあります。写真2は、3種がそろって出てきたところを撮影したものです。いまのところ、関東地域でしか遭遇しない光景です。

f:id:yurumushinomori:20220320091534j:plain写真2:左からオオムラサキ、アカボシゴマダラ、ゴマダラチョウの越冬幼虫

千葉県内の平野部や台地には、中央に川が流れる谷津田が点在し、その周囲に森が広がっていて、所々オオムラサキが生息しています。写真3千葉市内にある谷津田の一つです。

f:id:yurumushinomori:20220320091547j:plain写真3

谷津田の周囲の森には、根際が発達したエノキ高木が点在していますが、このような根元から越冬幼虫が出てきます(写真4)。

f:id:yurumushinomori:20220320091601j:plain写真4

写真5は、オオムラサキゴマダラチョウがいっしょに出てきたところを示します。

f:id:yurumushinomori:20220320091612j:plain写真5:左側2匹がゴマダラチョウ、右側2匹がオオムラサキ

埼玉、千葉、東京では年を追って、オオムラサキゴマダラチョウの越冬幼虫が減少しています。特に今年の冬は例年に比べて激減しており、ゴマダラチョウにおいてより顕著でした。

オオムラサキの成虫は森の縁を飛ぶ習性があり、樹液を吸いながらエネルギーを補給します。また越冬幼虫は、ある程度の湿気がないと冬を越すことができません。したがって、その生息や遺伝的多様性の維持には、エノキや樹液を出す樹木(クヌギやコナラなど)が豊富にあって、湿気が保たれたある程度の大きさの森や雑木林が必要です。

開発などで森が分断されると、成虫の生息を狭めることになり(遺伝的多様性の縮小)、幼虫に必要な湿気も失われていきます。エノキの伐採は特に大打撃になります。東京都では、過去このような経緯で平野部では急速にオオムラサキはいなくなったと思われます。一方、埼玉、茨城、千葉ではまだギリギリの状態で平野部での生息を保っているのではないでしょうか。

ゴマダラチョウオオムラサキと比べれば生息範囲が広く、街中の公園や緑地でも見ることができますが、同様に個体数の減少が起こっています。むしろ、個人的には、オオムラサキよりも経年の減少速度が速い印象を受けます。

日本本土産のアカボシゴマダラは特定外来生物に指定されており、在来種との食樹(エノキ)をめぐる競合が懸念されています。しかし、私たちの調査では、いくつかの先行研究もあるとおり、アカボシゴマダラの幼虫の生息場所は圧倒的にエノキ低幼木であり、高木を好むゴマダラチョウオオムラサキとは棲み分けを行なっていると考えられます。現在、詳細な分布調査を行っています。

            

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