ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、調査記録、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

ウマノスズクサ

カテゴリー:チョウの食草と食樹

       

ウマノスズクサ Aristolochia debilisウマノスズクサウマノスズクサ属) ●食草とする幼虫のチョウ種:ジャコウアゲハアゲハチョウ科

つる性の多年草で、川土手、道ばた、林縁などいたるところに生えます。茎は長さ 2–3 m になり、よく分枝し、他の植物などに絡みつく性質がありますが、細いので折れやすく、先の方はちぎれやすいです。トランプのスペードを少し長くしたような、かつ先端が丸みのある葉をつけるのが特徴です。地上部は毎年枯れますが、地下茎がしっかり残っていて、すぐに芽を出します。ゆるむしの森では少なくとも 2 カ所群生しています。

ウマノスズクサは独特の臭気をもち、アリストロキア酸という毒性の強いアルカロイドを含みます。ジャコウアゲハの幼虫の食草になりますが、幼虫はこの葉や茎を食べて毒を溜める性質があり、鳥などの捕食から身を守っています。

ジャコウアゲハの幼虫は茎を食べ、特に終齢幼虫は食いちぎる性質があるので、小さな株だとすぐに枯れてしまいます。そのため、複数の幼虫が同時に成長するためには、豊富な量のウマノスズクサが必要です。ジャコウアゲハは年 3〜4 回発生し、11 月まで幼虫がみられます。

十分に成長した終齢幼虫は、蛹化のために食草を離れます。この頃になるとウマノスズクサは食べ尽くされ、ボロボロになり、短い茎だけになっていることが多いです。幼虫は、近くの支持体になりそうな木の幹、葉、人工物の壁などに上り、蛹になります。下の写真は、ミズキの葉に上った終齢幼虫が蛹になったところを示します。

幼虫もそうですが、蛹も独特な姿をしていて、「オキクムシ」と呼ばれています。細い黒糸で体をくくりつけている様子が、怪談の番町皿屋敷の中に出てくるお菊という女性を思わせることから、と言われています。

1 化目の成虫は 4 月中旬から下旬にかけて羽化し、5 月に入ると産卵行動に入ります。卵(オレンジ色を呈する)は葉の裏側に1個ずつ、株を変えながら、あるいは時間を変えながら繰り返し産みつけられます。

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2023.09.10 ジャコウアゲハの産卵

       

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メダケ

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メダケ Pleioblastus simonii(イネ科メダケ属) ●食草とする幼虫のチョウ種:タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科ヒメジャノメ、ヒカゲチョウ、クロヒカゲ、サトキマダラヒカゲ、クロコノマチョウ、セセリチョウ科イチモンジセセリ、チャバネセセリ、オオチャバネセセリ、コチャバネセセリ、キマダラセセリ

多年生常緑イネ科の植物で、高さは 3〜8 m になります。和名は「タケ」ですが、いわゆるササの一種です。湿気を好み、河川敷や海辺の丘陵などで群落を作ります。水田地帯の民家付近に植えられていたものが野生化し、とくに休耕田で群生する場合があります。ゆるむしの森にまとまって存在するメダケ林はこの例です。

地下茎を伸ばしながらどんどん繁殖し、初夏には筍があちこちから顔を出します。十分に成長したものは、先が垂れるようになります。伐採管理を怠るとまたたく間に広がっていく厄介者ですが、真夏のメダケ林の傍や中では、周辺の気温より 数度低くなるなど冷却効果があります。ゆるむしの森では、メダケ林が森全体の保湿と冷却に貢献していると考えられます(関連記事:メダケの役割を考慮した管理)。

メダケは、シノダケ(篠竹)と呼ばれることもありますが、この名はスズダケ、アズマネザサなども含む細い竹や笹の俗称です。メダケは、上部が密に分岐し、葉が尖っていて先が垂れ下がること、桿を包む皮が斜め上方向になっていることで類似種と区別できます。

ゆるむしの森での多様なジャノメチョウ亜科、セセリチョウ科のチョウの生息は(上記ではクロヒカゲのみ生息せず)、メダケ林に支えられています。

       

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シラカシ

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シラカシ Quercus myrsinifolia(ブナ科コナラ属) ●食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:ムラサキシジミシジミチョウ科

常緑高木で、高さ 20 m ほどになります。和名は材が白いことに由来します。いわゆるカシ類の一種で、秋にドングリが生ります。樹皮は灰茶褐色で、平滑または縦に並んだ皮目があり、ザラザラしていますが、割れ目はありません。葉は互生し、葉身の長さ 5–12 cm、幅 2-4mの長楕円形で、葉先は鋭く尖ります。葉縁の上部 3 分の 2 にきょ歯がまばらにみられます。ブナ科常緑樹の特徴で、葉は革質、緑色で光沢があり、無毛です。

本州(福島県新潟県以西)、四国、九州の山地に自生するほか、公園や家の植樹としても利用されています。ゆるむしの森のコア領域にはまだ低木しかありませんが、周辺の屋敷林や隣接する神社境内に高木が点在します。

ムラサキシジミの食樹(幼虫が葉を食べる)であり、周年を通じて、葉上にムラサキシジミの成虫がとまっている姿を見ることができます。ムラサキシジミ以外では、アカシジミが食樹とすることがありますが、この森での目撃例はまだありません。

シラカシの高木は、クヌギほどではありませんが、樹液を出します。夏には、いろいろな昆虫が樹液を求めて集まっている姿を見ることができます。

      

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チヂミザサ

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チヂミザサ Oplismenus undulatifolius(イネ科チヂミザサ属) ●食草とする幼虫のチョウ種:タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科ヒメジャノメ、コジャノメ、ヒメウラナミジャノメ、クロコノマチョウ、セセリチョウ科キマダラセセリ

イネ科の多年草で、葉の形がササに似ていて、波をうつような縮んだようなしわがあることからこの名前があります。林の中の少し陽がさすような場所に発生することが多く、地面に這うように広がって群生します。秋に花が咲き、茎の一部が立ち上がって高さ 30 cm ほどの穂になります。開花時の雌しべの柱頭の羽毛状の毛や紫色の葯が目立ちます。

地面に低く生えているのであまり目につきませんが、ジャノメチョウやセセリチョウの一部の種の貴重な食草になります。上記のチョウ種のなかで、コジャノメは、まだ「ゆるむしの森」では確実には目撃していません。

      

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アキニレ

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アキニレ Ulmus parvifolia(ニレ科ニレ属) ●食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:ヒオドシチョウタテハチョウ科タテハチョウ亜科

落葉高木で、樹高 10~15 m になります。樹皮は灰色~灰褐色で、不規則な鱗片状に剥がれてまだら模様となります。亜高木には樹皮に赤い粒々があります。葉は濃緑色で、厚みがあり、やや硬く、丸みを帯び、全体に鋸歯があります。他の落葉樹と比べると成長はやや遅いです。ゆるむしの森では最も多く見られる樹木です。

シータテハやカラスシジミの食樹にもなりますが、これらのチョウは山地性で、この地域(埼玉県中央・東部)には生息していません。

アキニレの葉にはアキニレヨスジワタムシ(アブラムシ科タマワタムシ亜科)が虫こぶをつくります。鮮やかな赤い葉瘤でアキニレハフクロフシとよばれています(以下写真右)。

秋になると淡い緑色の実がなります。

ゆるむしの森にはアキニレがたくさんあるせいか、様々なチョウが葉上にとまる姿を目撃できます。

アキニレの特徴の一つは、樹液が豊富なことです。ヤナギ類とともに、虫たちの樹液レストランの場になります。5月から夏にかけて、タテハチョウの仲間、スズメバチ、甲虫類などがたくさん集まります。クワガタやカミキリムシは幹に穴を開けて入り込みます。

        

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ハンノキ

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ハンノキ Alnus japonica(カバノキ科ハンノキ属) ●食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:ミドリシジミシジミチョウ科

落葉高木で、高さ10~20mになります。日本全国および東アジアに局地的に分布します。湿気の多い低地,湿地に生える耐水性の樹木で、水田の周囲や水田耕作放棄地に繁殖する例が多く見られます。ゆるむしの森のハンノキ林もこの例です。

アクチノミセス門(Actinomycetota)の窒素固定細菌であるフランキア菌と共生しており、痩せ地でも旺盛に生育します。

6月になると葉上に羽化しばかりのミドリシジミの成虫を見ることができます。早春には越冬卵からふ化した幼虫の姿を葉上や枝上に見ることができますが、すぐに葉を巻いてそのなかに隠れて過ごすようになります。

冬〜早春の落葉したハンノキの林と新緑の林は対照的な趣があります。

ハンノキは、また、オナガミズアオ(チョウ目ヤママユガ科)の食草になります。主幹の樹皮の間に産みつけられた卵を観察することができます。

        

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ヤナギ類

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カワヤナギ Salix gilgiana(ヤナギ科ヤナギ属) 🟠食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:コムラサキタテハチョウ科コムラサキ亜科

北海道南部から九州まで広く自生する落葉高木で、高さ 3〜10 m になります。日当たりのよい河原や水田跡など湿気の多いところに生えます。雌雄異株で、幹は直立、または株立ちします。ゆるむしの森では最も多いヤナギで、コムラサキの幼虫が最もよく発生します。樹液も豊富で、甲虫類やスズメバチが集まります。

ヤナギ類の樹皮はゴツゴツしていて、コムラサキの幼虫はこの樹皮の隙間に身をひそめて越冬します。越冬幼虫の大きさは 10 mm 弱で、保護色になっているので、目を凝らさないと見つけられません↓。

          

マルバヤナギ Salix chaenomeloides(別名:アカメヤナギ、ヤナギ科ヤナギ属) 食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:コムラサキタテハチョウ科コムラサキ亜科

本州、四国、九州に自生する落葉高木で、日当たりのよい河原や水田跡などに生え、高さ 10〜20 m になります。ヤナギ類の葉は一般的に細長いですが、マルバヤナギはその名のとおり、葉が丸みを帯びた楕円形で、縁には小さな鋸歯があります。ゆるむしの森では、カワヤナギに次いで多く生えています。

果実は6月頃に裂開し、白い綿毛に包まれた小さな種子を飛ばします。初夏にはふわふわとした雪のように舞う姿が見られます。若葉は赤味を帯び、別名アカメヤナギの由来になっています、

他のヤナギと同様、樹液が豊富でタテハチョウ科の仲間、クワガタムシなどの甲虫類、スズメバチなどがよく集まります。

          

ネコヤナギ Salix gracilistyla(ヤナギ科ヤナギ属) 🟠食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:ヒオドシチョウタテハチョウ科コムラサキ亜科

北海道から九州まで広く分布する落葉広葉低木で、上記 2 種のヤナギよりも樹高は 2〜3 m と低いです。枝が立ち上がるものと、横に枝が伸びるものがあります。他のヤナギよりも水際を好み、水に浸ったところからも根を下ろして株が増えます。

ヤナギ類の中ではシダレヤナギとともにヒオドシチョウの食樹となり、 幼虫が群生することがあります。ゆるむしの森では最も大きい株にヒオドシチョウの幼虫が群がる姿を見かけることがありましたが、この木が折れて枯れて以来、低木を残すのみとなり、最近では幼虫を見かけなくなりました。

          

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