カテゴリー:チョウの食草と食樹
エノキ Celtis sinensis(アサ科エノキ属) 🟠食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:アカボシゴマダラ、ゴマダラチョウ(タテハチョウ科コムラサキ亜科)、ヒオドシチョウ(タテハチョウ科タテハチョウ亜科)、テングチョウ(タテハチョウ科テングチョウ亜科)
落葉広葉樹の高木で、大きくなると樹高 30 m 近くに、幹径が 2 m ほどに達します。枝が横に大きく広がる性質があり、樹形が全体として大きな丸みを帯びた緑陰になることで、ケヤキやムクノキと区別できます。また、エノキは、ケヤキと違って枝ぶりが曲がりくねることが多く、根元から幹が数本に分かれて出ていることもあります。
山地や平地を問わず、明るい場所に自生し、特に川沿いに群生することがあります。自然分布以外では、古くから人里にもよく植えられ、高木で目立つために歴史的に一里塚としても利用され、あちこちに巨木が残されています。神社仏閣や公園にも植栽されることがあります。
学名の種形容名 sinensis に表されるように、元々は大陸(中国中部、朝鮮半島)の樹木種ですが、古くに日本に渡来し、今では日本を代表する樹木の一つになっています。日本国内では本州、四国、九州に分布しますが、類似種のエゾエノキやクワノハエノキ(リュウキュウエノキ)と局所的に混在し、北海道にはエゾエノキのみが、奄美諸島以南ではクワノハエノキのみが分布します。
樹皮は灰白色から灰褐色で、表面を触るとざらざらしています。表面にはいぼ状のものが多数つき、枝の痕(横線)が一定間隔で並ぶことが多いです。
葉は互生し、長さ 5–10 cm の卵形、長楕円形で、先は尾状にのびます。葉縁の上半分にはきょ歯がありますが、下部は全縁であり、また高木の葉は緑色が強く、厚みがある感じになります。これらの特徴によりケヤキやムクノキと区別できます。また葉脈は、先端まで届かず、丸みを帯びています。晩秋の紅葉時期には、黄色に色づき、他の紅葉落葉樹の中にあると目立ちます。
開花時期は 4-5 月で、葉の根元に小さな淡黄褐色の花を咲かせます。果期は秋(9 月下旬-10 月)で、直径 5-8 mm の球形の橙、赤色の果実をつけ、熟すと赤褐色になります。果実は甘く食べることがでます。果実は野鳥が好んで食べるので、未消化の種子が拡散、散布されて、至る所にエノキの幼木が生えてきます。公園の植栽の間からも頻繁に出てきますが、このような幼木は「雑木」として管理・伐採の対象にされます。
エノキは、タテハチョウ科の種であるアカボシゴマダラ(本州産は中国からの外来種、土着種は亜種が奄美諸島に分布)、ゴマダラチョウ、ヒオドシチョウ、テングチョウの食樹であり、果実は野鳥にも好まれるので、生態系と生物多様性を形作る重要な樹木と言えます。面白いことに、本州産のアカボシゴマダラは低幼木の葉に好んで産卵する一方、ゴマダラチョウは主に亜高木、高木の葉に産卵する傾向があります。ヒオドシチョウとテングチョウは、どちらかと言えば亜高木より低い木を好むようです。
ゴマダラチョウやアカボシゴマダラの越冬態は幼虫(主に 4 齢幼虫)で、エノキの根元の落ち葉にくっついて冬を過ごします。初春の日長と気温上昇を感知して起眠し、枝の分かれ目などに上って新葉が出るまで待機します。特に、アカボシゴマダラは幼木の二又の部分で位置どりすることが多いです。
新葉が出ると同時に 5 齢に脱皮し、葉をもりもり食べて最終的に(頭部突起部分を除いて)4 cm ほどの体長になります。
蛹(垂蛹)はそのままエノキの葉の裏側に形成されるか、エノキを降りて別の場所で作ることもあります。多くは 5 月上旬に羽化し、1 化目の成虫が発生します。
ゴマダラチョウは年 3 回、アカボシゴマダラは年 3、4 回発生しますが、両種とも 2 化目の産卵は 6 月上旬、3 化目の産卵は 9 月上旬に見られることが多いです。ゴマダラチョウは葉の表に数個(多い時は数十個)卵を産みますが、アカボシゴマダラは1個ずつ葉の面に産んでいきます。卵は直径 1 mm ほどで、淡いエメラルドグリーンをしており、両種の見分けは困難です。
ゆるむしの森で見られる上記 4 種とは別に、エノキは国蝶であるオオムラサキの幼虫の植樹となります。オオムラサキは、すでに埼玉県東部地域では絶滅とされており、ゆるむしの森でも見ることができませんが、埼玉県内では局所的に分布しているところがあります。また隣接する茨城県南部や千葉県北西部にも一部見られるところがありますので、ここでもそれぞれの県内某所で撮った写真を挙げておきます。
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