ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

ゆるむしの森のカエル

カテゴリー:生き物観察

「ゆるむしの森」はとてもカエルが多い森です。草むらやあちこちの樹木の葉上にたくさんの個体を見ることができます。池や田んぼの水の中にいるイメージのカエルですが、樹上生活が普通の姿です。この森ではまだ詳細には調査していませんが、普段よく見られるカエルをここで紹介したいと思います。

最もよく見られる種の一つがアマガエル(ニホンアマガエル)です(写真1-4)。

↑写真1  コナラの葉の上にとまるアマガエル Hyla japonica(2022年7月30日)

写真2  エノキの葉上のアマガエル(2022年8月6日)

写真3  エノキの葉上のアマガエル(2022年8月6日)

写真4  マルヤナギの幹上のアマガエル(2022年8月6日)

アマガエルと並んで数が多いのがヌマガエルです(写真5–8)。元々は四国、九州、奄美諸島沖縄諸島などに生息する南方系のカエルでしたが、今は本州以西までに生息域が拡大した国内侵入種です。

写真5  地面で並んだヌマガエル Fejervarya kawamurai(2022年7月30日)

写真6  雨水貯めに敷いたブルーシートの上のヌマガエル(2022年6月13日)

ヌマガエルはツチガエルに似ていますが、お腹が白いことで区別できます。ツチガエルにはお腹に斑点模様があります。またヌマガエルはツチガエルに比べてあまり臭いがないです。

これらは実際捕まえてみないとわからないことですが、背面上でも区別できます。よく観察すると、ヌマガエルには両眼の背部にV字模様を確認することができます(写真7)。この模様はツチガエルにはありません。

写真7  ヌマガエルの特徴の一つである両眼の背部にあるV字模様(矢印)

写真8  池の中のヌマガエルと思われるオタマジャクシ(2022年6月18日)

数は少ないですが、トノサマガエルも時々見ることができます(写真9)。

写真9  地面を飛び跳ねていたトノサマガエル Rana nigromaculata(2022年5月22日)

そのほか、アカガエルと思われる鳴き声も時折聞こえることがありますが、お目にかかることは滅多にありません。

このようにカエルがとても多いので、それをエサとするヘビも多かったのですが、昨年、今年と目撃回数が激減しています。キジやサギなどの上位の捕食者が増えているせいでしょうか。

             

カテゴリー:生き物観察

セミの翅がもつ抗菌作用

カテゴリー:科学おもしろ話

はじめに

「ゆるむしの森」では6月からセミが発生し、7月終わり頃から、複数種のセミの鳴き声を同時に聞くことができます。ニイニイゼミ、ミンミンゼミ、アブラゼミ写真1)、ツクツクホウシ、ヒグラシの5種です。お隣の東京都や千葉県では、北上化したクマゼミの鳴き声をときどき聞くことがありますが、この森(埼玉県)ではまだ聞いたことはありません。

写真1  羽化したばかりのアブラゼミ(2022年7月30日、埼玉県ゆるむしの森)

セミは透明で大きな翅をもちますが、実はこの翅には抗菌作用があることがわかっています。抗菌作用と言っても、セミの翅に何か抗菌物質があるというわけではなく、その特異な物理的構造によって細菌を破壊してしまうという機構です。これはトンボなどにも見られる性質のようです。

1. セミの抗菌作用の発見

セミの翅に抗菌作用があることが初めて明らかにされたのは今から10年程前で、豪スウィンバーン工科大学(Swinburne University of Technology)のエレーナ・イワノワ Elena Ivanova 博士らの国際研究チームによって論文が発表されました [1, 2, 3]セミの翅という、天然素材の構造だけで細菌を殺してしまうことが見つかったのは初めてのことで、ネイチャーダイジェストでも取り上げていました [4](以下ツイート)

彼女らの研究チームが材料として使ったのは、クランガーゼミ(clanger cicada, Psaltoda claripennis)という種です。このセミの翅の表面にが、ナノサイズの柱(突起物)が等間隔に六角形をなすように立ち並んでいることを見つけました。これを「ナノピラー(極微細突起)」とよびます。

ナノピラーの先端は、丸い針のような形をしています。細菌が翅の表面にくっつくと、ナノピラーがそれにスパイクのように突き刺さります。すると細菌の細胞膜は、ナノピラーとナノピラーの間隙へと引き伸ばされ、大きなひずみが発生します。細胞膜が十分に柔らかければ、その細胞は破裂するというわけです(図1)。

図1. セミの羽のナノピラーと細菌細胞の相互作用の生物物理学的モデル(文献 [3] より転載). (a) セミの翅のナノピラーに吸着した細菌の外層の模式図. 吸着層は、柱に接触しているA領域と柱の間に浮遊しているB領域の2つに分けることができる。領域Aが吸着し、その表面積(SA)が増加するため、領域Bは引き伸ばされ、最終的に破断する. (b-e) は棒状セルと翼面との相互作用をモデル化した3次元表示. 細胞が接触し (b)、ナノピラーに吸着すると (c)、ピラー間の領域で外層が破れ始め (d)、表面に崩れ落ちていく (e). 画像b~eは、http://youtu.be/KSdMYX4gqp8 で公開されているメカニズムのアニメーションからのスクリーンショット.

イワノワ博士らが発見した昆虫の翅のナノピラー構造は、物理的に殺菌効果を示すものであり、熱湯も、マイクロ波の放射も、抗菌剤も必要ないという画期的な発見です。従来の抗菌グッズと言えば、化学的な作用に基づくものが多かったのですが、このナノピラー構造を応用すれば、より簡単で安全な抗菌グッズができるかもしれません。

2. 実は化学成分も重要

上記のように、セミの翅には抗菌性があることがわかったわけですが、この翅には水をはじき(超疎水性)、自ら清浄を保ち(セルフクリーニング性)、透明性を保つ(防曇性)などの優れた機能もあります。これが果たして種によって違いがあるのか、ナノピラーの形状や組成の違いが、発揮される特性の程度にどの程度影響を与えるのか、という疑問があります。この疑問に答えたのが、米イリノイ大学バナ・シャンペイン校(University of Illinois at Urbana–Champaign)のマリアン・アライン(Marianne Alleyne)教授の研究チームです [5]

彼女らは、表面形状や化学組成と多機能性との関係を理解するために、異なる種のセミの翅のマイクロ波抽出分析を行ない、ナノピラーの機能性に寄与する化学成分を特性評価しました。用いたセミは、超疎水性の翅をもつネオチビセン属セミNeotibicen pruinosus と、素数(17年)ゼミの一種で疎水性の翅をもつヒメジュウシチネンゼミMagicicada cassinii の2種です。

マイクロ波抽出法を用いて、セミの羽から徐々に成分を除去しながら濡れ性、汚れ性、抗菌性の変化を調べた結果、ナノ構造の主成分はC17からC44の脂肪酸と飽和炭化水素であり、短鎖脂肪酸と酸素を多く含むアルコール、エステル、ステロールが混在していることが判明しました。最も疎水性の高い成分はナノピラーの高い位置(翅の表面付近)にあり、親水性の高い分子は深い位置に埋まっていることがわかりました。

化学的抽出を行なうと、ナノピラーの変形には両種で違いが認められました。すなわち、ネオチビセンゼミでは高いナノピラーが縮んで互いにぶつかり合うようになりましたが、ヒメジュウシチネンゼミのナノピラーは形を保ったままでした。しかし、両種とも抗菌性が低下しました。つまり、物理構造のみならず、化学成分自体が抗菌性を発揮するのに重要だということです。

これらの結果は、ナノピラーの分子組成がその物理的形状と協調して、抗菌性において直接的および間接的な役割を果たすことを示唆しています。このデータは、ナノピラーの分子組織とマクロスケールの機能特性との相関を示すだけでなく、天然ナノ構造を模倣して人工基板上に複製して望むような特性を発揮させる際に、重要な考設計指針を与えると研究チームは述べています。

おわりに

セミの翅の抗菌に関する知見は、いろいろなことに応用できそうです。病院や様々な施設の人が触れる面の抗菌とか、水中の殺菌などが考えられます。さらに研究を進めれば、他の重要な分子も発見できるかもしれません。

それにしてもこの分野の研究を、偶然にもいずれも女性が主導しているというのも興味深いですね。セミやトンボだけでなく、透明な翅をもつハチにも同様な機能があるのでしょうか。さらには、鱗粉があるチョウ目昆虫とか、普段は翅が隠れている甲虫類やバッタ類はどうなのでしょうか。興味はつきません。

引用文献

[1] Ivanova, E. P. et al. Natural bactericidal surfaces: Mechanical rupture of Pseudomonas aeruginosa cells by cicada wings. Small 8, 2489–2494 (2012). https://doi.org/10.1002/smll.201200528

[2] Hasan, J. et al.: Selective bactericidal activity of nanopatterned superhydrophobic cicada Psaltoda claripennis wing surfaces. Environ. Biotechnol. 97, 9257–9262 (2013). https://link.springer.com/article/10.1007/s00253-012-4628-5

[3] Pogodin, S. et al.: Biophysical model of bacterial cell interactions with nanopatterned cicada wing surfaces. Biophys J. 104, 835–840 (2013). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3576530/ 

[4] Quirk, T.: Insect wings shred bacteria to pieces. Nature Mar. 4, 2013. https://doi.org/10.1038/nature.2013.12533

[5] Román-Kustas, K. et al.: Molecular and topographical organization: Influence on cicada wing wettability and bactericidal properties. Adv. Mater. Interfaces 7, 2000112 (2020). https://doi.org/10.1002/admi.202000112

              

カテゴリー:科学おもしろ話

7月のチョウ類ーその2

カテゴリー:生き物観察

先週のブログ記事で、7月の「ゆるむしの森」で見られたいくつかのチョウの仲間を紹介しましたが、昨日、追加の種を撮ることができましたので、ここでアップします。

夏の真っ盛りの森は下草が伸び、いくつかの樹木の幼木は隠れてしまいそうです。写真1は森のシンボルである2本のハンノキです。下は、近年、ますます浸食が激しいセイタカアワダチソウで埋め尽くされています。5月はこのあたりはオヤブジラミで覆われていました。

写真1  森のシンボルである2本のハンノキ

このところ酷暑が続いていますが、ハンノキの森の中に入ると、木陰でちょっぴり涼しくなり、ホッとします(写真2)。この周辺ではアサマイチモンジ、イチモンジショウ、コミスジが飛んでいました。

写真2  ハンノキの森のなかの観察路(中央左に見えるのはクヌギ幼木と支柱)

しかし、いま昼間はとても暑く、5–6月のような沢山のチョウが飛翔する姿は見られません。注意深く探していると、メダケ林の近くのアキニレにアゲハチョウがとまっているのを見つけました(写真3)。

写真3  アキニレの葉にとまるアゲハチョウ Papilio xuthus(2022年7月30日)

ハンノキの森の下草にはキアゲハがとまっていました(写真4)。

写真4  ハンノキの森の下草にとまるキアゲハ Papilio machaon(2022年7月30日)

夕方になって気温が少し低くなると、タテハチョウの仲間が盛んに飛翔するようになります。アカボシゴマダラ、ゴマダラチョウコムラサキの3種が主です。

夕方はいずれも飛ぶスピードが速く、樹木の高い位置にとまることが多いので、シャッターチャンスがなかなかありませんでしたが、コムラサキを撮ることができました(写真5)。

写真5  翅を広げるコムラサキ Apatura metis(2022年7月30日)

こちらは、ハンノキの葉の上で静止するコムラサキです(写真6)。

写真6  ハンノキの葉上で静止するコムラサキ(2022年7月30日)

このほかに、カラスアゲハ、テングチョウ、ムラサキツバメと思われる個体を目撃しましたが、確実に同定するまでには至っていません。

            

カテゴリー:生き物観察

7月のチョウ類

カテゴリー:生き物観察

「ゆるむしの森」では、6月初旬に短時間ですが、ヒョウを伴うゲリラ豪雨に見舞われました。その際、低幼木を中心に枝折れや葉の損傷などがあり、多大な被害を受けました。クヌギやコナラの低木は何本か根元から折れ、アオキなどの大きい葉の樹木はズタズタになりました。

その時以来、オオスズメバチの姿が全く見られなくなりました。きっと豪雨で巣が流されたのでしょう。木に傷を付ける役目をもつスズメバチがいなくなったせいか、ヤナギやアキニレの樹液の出が悪くなり、7月に入ると全くと言っていいほど、樹液を見ることがなくなりました。いま、クワガタなどの樹液に集まる昆虫も表面上激減しています。

楽しみにしていた樹液に集まるタテハチョウの姿も見られなくなりました。しかし、森の中では飛翔する沢山のチョウの姿を目撃することができます。ここでは7月に見ることができたチョウ種を紹介します。

7月も中旬を過ぎると、2化目のタテハチョウが飛ぶ姿が増えてきました。最も多く見られるのがコムラサキとアカボシゴマダラです。コムラサキはいつものとおり、樹木の高い位置にとまることが多いので、なかなか写真に収めることができません。一方で、アカボシゴマダラは低い位置でもユラユラ飛びながら静止するので、割と簡単に撮影することができます。

写真1、2は、樹木の低い位置に静止するアカボシゴマダラです。

写真1  カキノハ上に静止するアカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis(2022年7月24日)

写真2  クワの葉上にとまるアカボシゴマダラ(2022年7月24日)

コムラサキ亜科のチョウとしては、ゴマダラチョウもこの森の常在種ですが、アカボシゴマダラよりも個体数が少なく、まだ2化目の個体を写真に撮るチャンスがありません。

上記のチョウ類に続いて、目撃回数が多いのがイチモンジチョウ亜科のアサマイチモンジ(埼玉県準絶滅危惧2型)、イチモンジチョウ、そしてコミスジです。7月の個体数としてはアサマイチモンジが最も多く、その半分くらいの割合でイチモンジチョウが見られます。5月には最多であったコミスジはめっきり少なくなりました。

写真3は、前翅の3室にある白紋の内側に小さな白点をもつアサマイチモンジです。

写真3  メダケの上に静止するアサマイチモンジ Limenitis glorifica(2022年7月7日)

写真4は、上記の個体を翅の裏側から撮ったものです。

写真4  メダケの上に静止するアサマイチモンジ(2022年7月7日)

アサマイチモンジは、ハンノキの森中央の少し開けた領域で飛んでいることが多く、下草やハンノキの葉上によく止まります(写真5)。

↑写真5  ハンノキの森の下草で静止するアサマイチモンジ(2022年7月24日)

写真6はイチモンジチョウです。アサマイチモンジといっしょによく飛んでいますが、近づいてよく見ないと識別することは難しいです。

写真6  ハンノキの葉上で静止するイチモンジチョウ Limenitis camilla(2022年7月24日)

上記のように(写真5)、アサマイチモンジは前翅第3室に白紋を有しますが、イチモンジチョウにはこれがありません。翅の裏側を見ても両者を識別することができます。写真7(矢印)に示すように、前翅に並ぶ白紋の4番目がはっきりしているのがアサマイチモンジ、この白紋がきわめて小さくなっているのがイチモンジチョウです。これらは翅の表側の模様にも反映されています。

写真7  翅の裏側からみたアサマイチモンジ(左)とイチモンジチョウ(右)の見分け方

写真8は7月に入ってめっきり少なくなったコミスジです。

写真8  アキニレの葉上で静止するコミスジ Neptis sappho(2022年7月24日)

写真9はキタテハです。一年中見られますが、7月は個体数が減るようです。

↑写真9  下草で静止するキタテハ Polygonia c-aureum(2022年7月24日)

ジャノメチョウ亜科では、ヒカゲチョウサトキマダラヒカゲ、ヒメジャノメが常在種ですが、前2種は7月に入り、ほとんど見られなくなりました。写真10はヒメジャノメです。

写真10  ヒメジャノメ Mycalesis gotama(2022年7月24日)

シジミチョウの仲間で7月に入って見られるようになったのがルリシジミです(写真11)。ハンノキの森の灌木の間を飛翔する姿が見られました。

写真11  ハンノキの森で見られたルリシジミ Celastrina argiolus(2022年7月7日)

この日休憩をしていると、ルリシジミがやってきて身体にとまりました。汗の匂いにつられてやってきたのでしょう。そのうち手の甲の上で汗を吸い始めました(写真12)。

写真12  手の甲で汗を吸うルリシジミ(2022年7月7日)

写真13はダイミョウセセリです。この個体は、関東型では通常見られない後翅の白紋がかすかに確認できました。

写真13  後翅にかすかに白紋がみられるダイミョウセセリ Daimio tethys(2022年7月24日)

最後は、チョウではないですがオナガミズアオです(写真14)。ハンノキの根元にいました。この森では4月と7月〜8月に多産します。

写真14  ハンノキの根元にいたオナガミズアオ Actias gnoma(2022年7月7日)

上記の写真で紹介した種の他、今年7月中に目撃できたチョウ類は以下のとおりです。

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アゲハチョウ科ナミアゲハナガサキアゲハ、クロアゲハ、アオスジアゲハ

シロチョウ科:モンシロチョウ、キタキチョウ

タテハチョウ科コムラサキゴマダラチョウヒメアカタテハルリタテハツマグロヒョウモン、ヒメウラナミジャノメ

シジミチョウ科:ミズイロオナガシジミヤマトシジミベニシジミ、ウラギンシジミ

セセリチョウイチモンジセセリ、オオチャバネセセリ、キマダラセセリ

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これから証拠写真を揃えていきたいと思います。

             

カテゴリー:生き物観察

ヤナギ類に群がる昆虫

2022.06.29更新  カテゴリー:生き物観察

樹液を出す木と言えばクヌギがコナラがよく知られています。残念ながら「ゆるむしの森」のクヌギやコナラはまだ低幼木の段階であり、樹液は期待できません。他方、樹液ではクヌギに劣らないヤナギ類が豊富にあります。ここで、5月の終わりから6月に観察できたヤナギ類上の昆虫について紹介します。

まずは、マルバヤナギに飛来したアカボシゴマダラの春型(白化型)です(写真1)。先のブログ記事(→クワガタムシ発生)でもすでに紹介していますが、この写真を撮った5月終わり頃に樹液を吸う姿が最もよくみられるチョウの一つです。6月に入ると急激に個体数を減らし、このブログを書いている時点ではほとんどみられなくなりました。7月に入れば、2化目の成虫がみられるようになるでしょう。

写真1  マルバヤナギ Salix chaenomeloides にとまるアカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis の白化型(2022年5月28日)

写真2ゴマダラチョウです。アカボシゴマダラの類縁種で、ほぼ同時期に発生しますが、この森ではアカボシと比べると樹液を求めて飛来する姿は少ないです。個体数が少ないというわけではなく、エノキやアキニレの樹上を飛翔する姿を頻繁にみることができます。

写真2  マルバヤナギの樹液を吸うゴマダラチョウ Hestina persimilis japonica(2022年6月1日)

樹液の吸蜜に飛来するチョウはほとんどがタテハチョウの仲間で、タテハチョウ亜科のルリタテハも頻繁にみることができます。5月はまだ越冬型の個体が主です。先のブログ記事(5月のタテハチョウ)でも紹介しています。

写真3  マルバヤナギにとまるルリタテハ Kaniska canace(2022年5月28日)

写真4はキタテハです。タテハチョウ亜科のなかでは、最も目撃が多い種です。

写真4  マルバヤナギにとまるキタテハ Polygonia c-aureum(2022年6月1日)

ヤナギを食樹とする代表種がコムラサキです。時おり樹液を吸う成虫をみることができますが、ヤナギ類や他の樹木の周囲を旋回する個体が主で、比較的高い位置で静止するので、なかなか写真に収める機会がありません。写真5は、樹液を吸う個体の貴重なスナップです。

写真5  マルバヤナギの樹液を吸うコムラサキ Apatura metis(2022年6月29日)

一方、6月も後半になると、2化目の終齢幼虫の姿が見られるようになります。写真6は、カワヤナギの葉を食べている最中の終齢幼虫です。

写真6  カワヤナギ Salix gilgiana の葉を食べるコムラサキ終齢幼虫(2022年6月23日)

ほかのコムラサキ亜科の幼虫と同じように、葉上に台座をつくり、頭をもたげるような格好で位置取りする姿をみることができます(写真7)。

写真7  カワヤナギの葉上で位置取りするコムラサキ終齢幼虫(2022年6月23日)

5月の終わり頃、マルバヤナギの幹上にホシカレハの卵を見つけました(写真8)。

写真8  マルバヤナギに産みつけられたホシカレハ Gastropacha populifolia の卵(2022年5月28日)

すでに先のブログ記事(→クワガタムシ発生)で紹介しているように、ヤナギの幹上にはクワガタムシをはじめとするたくさんの甲虫類をみることができます(写真9)。

写真9  マルバヤナギ上のコクワガタ Dorcus rectus とヨツボシケシキスイ Glischrochilus japonicus(2022年6月18日)

5月終わりにはまだみられなかったノコギリクワガタですが、6月に入ってからだんだんと個体数が増えてきました(写真10)。

写真10  マルバヤナギ上のノコギリクワガタ Prosopocoilus inclinatus(2022年6月23日)

6月も後半になると、1化目の成虫が減り始め、ほとんど姿が見えなくなるなかで、ジャノメチョウ亜科の種が幅を利かしています。ヤナギの樹液を吸う姿ではヒカゲチョウが最も多く、サトキマダラヒカゲがこれに次ぎます。樹液レストランの昆虫については、また追って紹介したいと思います。

2022年6月29日更新

樹液を吸うコムラサキの写真(写真5)を挿入しました。

            

カテゴリー:生き物観察

初夏のシジミチョウ

カテゴリー:生き物観察

この記事では、「ゆるむしの森」で6月初旬から中旬にかけて見られたシジミチョウの仲間を紹介したいと思います。

この森で最も期待していたことがミドリシジミ (埼玉県準絶滅危惧1型 [NT1])の発生です。4月にはハンノキに幼虫を(→ミドリシジミ)、5月下旬には、樹木の根元にいくつかの蛹を確認していました(写真1)。

写真1  ハンノキの根元のミドリシジミ Neozephyrus japonicus の蛹(2022年5月28日)

6月初めに森を訪れると、待望の成虫が発生していました。ミドリシジミの♂です(写真2)。この森で初めて成虫を見ることができました。

写真2  ハンノキ上で休むミドリシジミ(2022年6月1日)

10日余り後に訪れると、目撃できる個体数は増加し、日中ハンノキの葉上に目を凝らすとあちこちに静止している姿を見ることができました。残念ながら、開翅する姿を撮ることはできませんでした。

写真3  ハンノキの葉上で静止するミドリシジミ(2022年6月13日)

もう一つ初めて確認できたのがムラサキシジミです。森の外れに大きなシラカシがあるので期待はしていたのですが、昨年は一度も見ることができず、今回待望の目撃となりました(写真4)。

写真4  ムラサキシジミ Neozephyrus japonicus(2022年6月18日)

さらに、初めて撮影できたのがウラギンシジミです(写真5)。普通種ですが、これまで写真に収める機会がありませんでした。タヌキの糞に止まるところを撮ることができました。

写真5  タヌキの糞にとまるウラギンシジミ Curetis acuta paracuta(2022年5月28日)

写真6は常連のベニシジミです。ヒメジョオンで吸蜜する姿は色彩鮮やかで可憐です。

写真6  ヒメジョオンで吸蜜するベニシジミ Lycaena phlaeas(2022年6月13日)

写真7は、これも常連のツバメシジミです。

写真 ツバメシジミ Everes argiades の♀(2022年6月18日)

このほかにヤマトシジミやルリシジミをたくさん見ることができました。6月中旬の夕方、森を後にする時にミズイロオナガシジミ?らしきチョウが飛翔する姿を見かけましたが、しっかりと確認できませんでした。

            

カテゴリー:生き物観察

クワガタムシ発生

カテゴリー:生き物観察

「ゆるむしの森」では、例年5月の終わり頃になるとクワガタが見られるようになります。今年もそろそろかなと思って訪れてみると、ちゃんと発生していました。この森には樹液の豊富なクヌギの高木はないのですが、この時期、アキニレ、ハンノキ、マグワ、ヤナギ類の樹液レストランが開店中、クワガタのお客が来店していました。

写真1はハンノキ Alnus japonica の主幹にいたクワガタです。コクワガタ Dorcus rectus のオスと思われますが、特徴的な内歯の発達が確認できませんでした。小型の部類でしょう。

写真1  ハンノキ上のコクワガタのオス(2022年5月25日)

同じハンノキにいたコクワガタと思われるメスです(写真2)。

写真2  ハンノキにとまるコクワガタのメス(2022年5月25日)

写真3はアキニレ Ulmus parvifolia にとまるクワガタです。こちらもコクワガタのメスと思われますが、メスははっきり言ってよくわかりません。

写真3  アキニレにとまるコクワガタ(メス)と思われる個体(2022年5月25日)

この森には立派なマルバヤナギ Salix gilgiana が生えていますが、樹液が豊富で次々とアカボシゴマダラ Hestina assimilis assmilisオオスズメバチがやってきていました。写真4はアカボシゴマダラの白化型です。

写真4  マルバヤナギの樹液を吸うアカボシゴマダラ白化型(2022年5月25日)

同じ位置で画像を撮っていたら横から樹液の固形物を抱えたクワガタがやってきました(写真5)。

写真5  マルバヤナギ上のアカボシゴマダラとクワガタ(2022年5月25日)

こちらもアカボシゴマダラとクワガタの共演です(写真6)。

写真6  マルバヤナギ上のアカボシゴマダラとクワガタ(2022年5月25日)

もっと近づいて観察したかったのですが、どの樹液の木の周りもオオスズメバチがブンブン飛んでいて、思うようにいきませんでした。まもなく、ノコギリクワガタヒラタクワガタなども登場してくると思います。昨年は5月末に、ノコギリクワガタが見られました(→初夏の昆虫)。

            

カテゴリー:生き物観察