ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、調査記録、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

ウマノスズクサージャコウアゲハの産卵

カテゴリー:生き物観察

「ゆるむしの森」では、いろいろなチョウの産卵行動を頻繁に目撃することができます。前のブログ記事ではゴマダラチョウの産卵を紹介しました。ここではジャコウアゲハアゲハチョウ科写真1)の産卵を紹介します。

↑写真1  ゆるむしの森のジャコウアゲハ♀(2023年8月18日)

この森にはジャコウアゲハの幼虫の食草であるウマノスズクサが、少なくとも二カ所に生えています(写真2)。この森での本種の発生源になっていると思われます。

↑写真2  ウマノスズクサ

この日、森の観察路の草抜き作業をしていたところ、草地部分でユラユラと飛ぶジャコウアゲハのメスが目にとまりました。しばらく追跡していたところ、ウマノスズクサが生えている場所に降り立ちました。これはシャッターチャンスと思い、近づいてみると、しっかりと産卵行動に入りました(写真3)。地面スレスレの葉の裏に尾の先を押しつけ、結構長い時間この体勢をとり続けていました。

↑写真3  ジャコウアゲハの産卵(2023年9月10日)

この森でのジャコウアゲハの産卵行動はこれまで確認していませんでしたが、今回始めてカメラに収めることができました(写真3)。現場はウマノスズクサや他の下草が地面を這っていて、入り込むことが難しいので、産卵された卵を確認することはできませんでした。代わりに以前の写真を添付します(写真4)。直径 2 mm ほどの大きさで、きれいなオレンジ色をしています。

↑写真4  ジャコウアゲハの卵(2019年6月14日、千葉県柏市

観察できる範囲でできる限りウマノスズクサをチェックしたしてみたところ、すでに先住の幼虫がいて、2本の株にそれぞれ5頭ずつ、合計10頭を確認することができました(写真5-7)。

↑写真5  ジャコウアゲハの幼虫(2023年9月10日)

↑写真6  もう一本の株にいたジャコウアゲハの幼虫の一つ

ウマノスズクサは、前回の幼虫発生(7月)から時間が経っておらず、まだあまり成長していません。しかも、ところどころ茎が幼虫によって食いちぎられていて(写真7)、このままだと食糧難に陥りそうなので、数頭を別の株に移動させました。

↑写真7  ジャコウアゲハの幼虫

これらの幼虫は9月中、あるいは10月初旬までには羽化できるかもしれません。一方、今回産卵されたものは、どうなるでしょうか。蛹になって越冬に入るのでしょうか。引き続き観察を続けていきたいと思います。

       

カテゴリー:生き物観察

ゴマダラチョウの産卵

9月に入り、「ゆるむしの森」周辺の田んぼでも稲刈りが始まりました。気温はまだ高いですが、秋を感じますね。

9月はコムラサキ亜科のチョウの 3 化目の羽化が盛んになる時期です。ゆるむしの森では、コムラサキゴマダラチョウ、アカボシゴマダラの3種を見ることができます。そう思いながら森のなかに入ると、早速ゴダラチョウやアカボシゴマダラが飛翔する姿を目撃することができました。

しばらくすると、エノキの低木(樹高 4 m)にゴマダラチョウのメスがとまっているのを見つけました(写真1)。とてもきれいな翅をしていて、羽化後それほど時間が経っていない3化目の個体だと思われます。ちょうど目の高さくらいの位置で、よく見ると葉にくっつけるように尾部を曲げています。

↑写真1

近づいてみると、やはり尾部を盛んに曲げながら、産卵しているようで、カメラを近づけても逃げません(写真2)。

↑写真2

写真撮影を終えて、森を一回りし、また先ほどのエノキの場所に戻ってきて、葉を観察してみました。そしたら卵が7個しっかり産みつけてありました(写真3)。

↑写真3

エメラルドグリーンのきれいな卵です(写真4)。アカボシゴマダラは葉や枝に1個ずつ産みつけますが、ゴマダラチョウは一つの葉に複数個産むのが特徴です。

↑写真4

それにしても3化目の成虫がこの時期産卵とは早いですね。この森でのゴマダラチョウやアカボシゴマダラの卵のふ化率はこれまで4割以下ですが、できる限り多くの卵が無事ふ化できることを願っています。

3化目の成虫の卵は幼虫になった後は、越冬型に変態して冬越しをしますが、稀に年内に羽化までこぎつけることもあります。これらの卵がこれからどうなっていくのか、引き続き観察を続けたいと思います。

森ではコムラサキ(オス)のきれいな3化目個体も見ることができました(写真5)。風があってズーム目一杯で撮影なのでボケボケ写真です。

↑写真5

8月下旬にはほとんど見られなくなっていましたが、ゴマダラチョウ同様、10月まで個体数が増えていくと思います。

         

カテゴリー:生き物観察

8月のチョウ–2023

カテゴリー:生き物観察

今年の夏は例年と比べて暑い日が続いていますが、8月も下旬になると空や風が秋めいてきました。空の青さが秋を感じさせます。周辺の水田は稲穂が伸びて黄色になっています。9月になれば稲刈りが始まるでしょう。

このページでは、今年の8月にゆるむしの森と周辺で見られたチョウ種を紹介します。特に8月になって初めて見られた種や写真に撮ることができた種、あるいは個体数が増してきた種などを中心に記します。

写真1は、森の近くの民家の畑に咲いていた花に飛来したキアゲハです。普通種ですが、アゲハに比べると見かける頻度は少なく、今月になって初めて撮影できました。

↑写真1  キアゲハ Papilio machaon(2025年8月5日)

アゲハチョウ科のなかで比較的稀にしか見ることができないのがジャコウアゲハです(写真2、3)。今年は8月になって初めて見ることができました。今年は森の一角に生えている食草のウマノスズクサがだいぶ成長しましたが、多くの茎がことごとく折られていたので(成長した幼虫は茎を食べる性質がある)、おそらくそこで発生したものと推測されます。

↑写真2  ジャコウアゲハ Atrophaneura alcinous の♂(2023年8月18日)

ジャコウアゲハのメスは、淡い黄褐色をしていてとても綺麗で目立ちます(写真4)。

↑写真3  ジャコウアゲハの♀(2023年8月10日)

ゆるむしの森では春先から初夏にかけてモンシロチョウが大発生しますが、夏には激減します。代わりの8月から個体数を増してくるシロチョウ科の種がキチョウ(キタキチョウ)です(写真4)。秋になれば激増すると思います。

↑写真4  キタキチョウ Eurema mandarina(2023年8月5日)

写真5は常連のタテハチョウ、キタテハです。8月は個体数が減りますが、森全体に幼虫の食草であるカナムグラが生えていて、秋になると大発生します。

↑写真5  キタテハ Polygonia c-aureum(2023年8月5日)

コムラサキ亜科のタテハチョウの多くは8月(特に下旬)には見られなくなりますが、その中でもアカボシゴマダラだけは継続的に目撃することができます(写真6)。

↑写真6  アカボシゴマダラ Hestina a. assimilis(2023年8月5日)

イチモンジチョウ亜科のタテハチョウでは、アサマイチモンジが特徴的にこの森に生息していますが、イチモンジチョウも見ることができます。アサマイチモンジよりも個体数が少なく、8月になってやっと写真に撮ることができました(写真7)。

↑写真7  イチモンジチョウ Limenitis camilla(2023年8月25日)

写真8は常連のコミスジです。カラムシの葉上にとまっているところを撮りました。

↑写真8 コミスジ Neptis sappho(2023年8月25日)

8月に増えてくるジャノメチョウ亜科のチョウと言えばヒメジャノメです(写真9)。いま大発生しています。

↑写真9  ヒメジャノメ Mycalesis gotama(2023年8月18日)

ヒメジャノメと同じような発生パターンを示すジャノメチョウが、サトキマダラヒカゲです(写真10)。

↑写真10  サトキマダラヒカゲ Neope goschkevitschii(2023年8月25日)

8月になってやっと撮ることができたのが、新しく発生したムラサキシジミです(写真11)。越冬個体は4月に撮影しています(→4月上旬の蝶ーセセリチョウを中心に)。森内には食草であるブナ科常緑樹は少なく、まだ低木の状態ですが、隣接する神社境内にシラカシの高木が数本生えており、そこでは割と成虫の姿を見ることができます。

↑写真11  ムサラキシジミ Arhopala japonica(2023年8月25日)

今年初めて目撃できたのがムラサキツバメです(写真12、13)。南方系の種で温暖化とともに北上化していますが、この森でも見られるようになりました。

↑写真12  ムラサキツバメ Arhopala bazalus(2023年8月25日)

上記写真の個体は翅が破損していて、本種に特徴的な尾状突起が見られませんが、写真13の個体ではしっかりと確認できます。

↑写真13  ムラサキツバメ(2023年8月25日)

ゆるむしの森はセセリチョウ科のチョウが多いことで特徴付けられます。8月になって多くの種が個体数を増やしてきました。写真14はダイミョウセセリです。この種の目撃頻度はそれほど高くありません。

↑写真14  ダイミョウセセリ Daimio tethys(2023年8月18日)

いま最も個体数が多いセセリチョウの一つがイチモンジセセリです。いま森内で大繁殖しているジュズダマの葉上に止まった個体を撮りました(写真15)。

↑写真15  イチモンジセセリ Parnara guttata(2023年8月18日)

写真16はチャバネセセリです。この種もいま大発生しています。

↑写真16  チャバネセセリ Pelopidas mathias(2023年8月18日)

イチモンジセセリと並んで最も個体数が多いのがオオチャバネセセリです(写真17)。草むらを歩いていると次から次に飛び出してきます。

↑写真17  オオチャバネセセリ Zinaida pellucida(2023年8月18日)

上記のセセリチョウ種と比べると、ぐっと目撃回数が減るのがミヤマチャバネセセリです(写真18)。しかし、イチモンジセセリやオオチャバネセセリがあまりにも多いので、そのなかに埋もれて見逃している可能性もあります。春先には他種に先んじて発生するので、この時期には見つけやすいです(→4月上旬の蝶ーセセリチョウを中心に)。

↑写真18  ミヤマチャバネセセリ Pelopidas jansonis(2023年8月10日)

普通種なのになかなか見ることができないセセリチョウキマダラセセリです(写真19)。8月になってやっと見ることができるようになりました。

↑写真19  キマダラセセリ Potanthus flavus(2023年8月25日)

上記の写真で示したチョウ以外で、今年の8月に見られた種は以下のとおりです。

アゲハチョウ科:アゲハチョウ、クロアゲハ、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハ

シロチョウ科:モンシロチョウ、モンキチョウ

タテハチョウ科コムラサキゴマダラチョウ、アサマイチモンジ、ツマグロヒョウモン、ヒメウラナミジャノメ、ジャノメチョウ

シジミチョウ科:ウラギンシジミ、ルリシジミ、ツバメシジミヤマトシジミ

           

カテゴリー:生き物観察

イチモンジセセリとオオチャバネセセリ

ゆるむしの森では、セセリチョウの種が豊富に発生します。しかし、現場での種の識別はなかなか大変です。セセリチョウは素早く飛ぶ種が多く、翅の模様も似ているので、動いている状態での同定はまず不可能です。同定には、止まった状態で翅の裏面の白斑点の並びを入念にチェックするか(場合によってはカメラに収めて確認する)、捕虫網で捕らえて確認するしかありません。

特に紛らわしいのが、セセリチョウ亜科のイチモンジセセリとオオチャバネセセリです。両種は、基本的に、後翅裏面の白斑点が真っすぐ並ぶか、ジグザグに並ぶかで識別可能ですが、実は紛らわしいのがけっこういるのです。

一昨日ゆるむしの森を訪れた際には、10頭以上のセセリチョウにお目にかかりましたが、イチモンジセセリとオオチャバネセセリが半々でした。一部を除いて、写真に撮って拡大してみないと同定は困難でした。

写真1は、典型的な模様のイチモンジセセリを示します。後翅の4つの白斑点が一列に並んでいます。

↑写真1  イチモンジセセリの典型的個体(2023年8月5日)

写真2は、後翅の白斑点がちょっぴりズレたイチモンジセセリです。

↑写真2  後翅の白い斑点が直線上からややズレたイチモンジセセリ(2023年8月5日)

写真3は、後翅の白斑点の発達が弱い個体です。このくらいになると写真撮影して拡大してみないと、同定が難しいです。

↑写真3  後翅白斑点の発達が弱いイチモンジセセリ(2023年8月5日)

写真4は、やはり後翅の白斑点がややジグザクに並んでいる個体です。これも写真撮影して拡大してみないと、同定が容易ではありません。

↑写真4  後翅白斑点の発達が弱く直線上からややズレたイチモンジセセリ(2023年8月5日)

写真5はオオチャバネセセリです。後翅白斑点の発達が弱く、写真で確認しないと同定が難しい個体です。写真4イチモンジセセリと比べるとわかりますが、よく似ています。オオチャバネセセリはイチモンジセセリよりもやや大きく太って見えるので、それも参考にすることができます。

↑写真5  後翅白斑点の発達が弱いオオチャバネセセリ(2023年8月5日)

写真6は、後翅白斑点がよく発達した典型的なオオチャバネセセリです。

↑写真1  オオチャバネセセリの典型的個体(2023年6月21日)

これから秋にかけて、イチモンジセセリとオオチャバネセセリの個体数がまた一段と増えてくると思います。

      

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7月のチョウ−2023

カテゴリー:生き物観察

2023年の7月も残りわずかとなりましたが、連日猛暑が続いています。ゆるむしの森でも日中35℃を超える毎日ですが、木々の間に入れば1-2℃下がりますので、まだ過ごしやすいです。この記事では今年の7月に見られたチョウを紹介します。基本的に6月とあまり変わりませんが、若干の種の入れ替えと、暑い7月下旬における個体数の減少が見られます。 

写真1は、森のシンボルの一つであるハンノキのツインタワーです。下草が繁茂し、観察路を覆ってしまうので、この時期、道を確保する草刈りが大変です。

↑写真1(2023年7月24日)

写真2中央は、この森で一番樹液が豊富なマルバヤナギですが、今年は幹をかじるオオスズメバチの活動が悪く、樹液が枯れ気味です。

↑写真2(2023年7月24日)

以下、写真に収めることができた種類を、シロチョウ科、タテハチョウ科、シジミチョウ科、セセリチョウ科の順に挙げます。

まずはモンキチョウです(写真3)。シロチョウ科の種は全般的に夏には個体数が減り、シャッターチャンスも少ないです。

↑写真3  モンキチョウ Colias erate(2023年7月7日)

写真4–12はタテハチョウ科の仲間です。タテハチョウ亜科のなかでは、ヒメアカタテハ写真4)がキタテハの次に多い種ですが、目撃回数はそれほど多くありません。
↑写真4  ヒメアカタテハ Vanessa cardui(2023年7月7日)

コムラサキ写真5)はこの森でよく見られるコムラサキ亜科の種で、7月半ば過ぎから2化目の個体が多くなります。

↑写真5  コムラサキ Apatura metis(2023年7月28日)

コムラサキ亜科の種で最も多く見られるのがアカボシゴマダラです(写真6)。いま2化目の個体(夏型)が乱舞しています。

↑写真6  アカボシゴマダラ Hestina a. assimilis(2023年7月18日)

6月は目撃頻度が少なくなったコミスジ写真7)ですが、7月にまた多く見られるようになりました。

↑写真7  コミスジ Neptis sappho(2023年7月7日)

ミスジと同様、アサマイチモンジ(写真8)も7月に入って多く見られるようになりました。2化目の個体です。イチモンジチョウ亜科のなかでは、コミスジと並んで普通に見られます。

↑写真8  アサマイチモンジ Limenitis glorifica(2023年7月28日)

写真9ツマグロヒョウモンです。森内の草地部分でよく見かけるドクチョウ亜科の種で、季節性はあまり感じません。

↑写真9  ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius(2023年7月2日)

ジャノメチョウ亜科の種は季節性が見られます。6月にはあまり見かけなくなっていたヒメジャノメ(写真10)ですが、7月に入って増えてきました。2化目の個体だと思います。

↑写真10  ヒメジャノメ Mycalesis gotama(2023年7月24日)

ジャノメチョウは今年の7月になって初めて複数個体を目撃した種です(写真11)。

↑写真11  ジャノメチョウ Minois dryas(2023年7月7日)

ヒメウラナミジャノメ(写真12)も6月はほとんど見られませんでしたが、7月になって増えてきました。

↑写真12  ヒメウラナミジャノメ Ypthima argus(2023年7月2日)

ジャノメチョウ亜科のなかでは、6月には沢山見られたヒカゲチョウですが、7月に入ってほとんど見かけなくなりました。サトキマダラヒカゲは6月から相変わらずほとんど見かけませんが、そろそろ増えてくる時期だと思います。

写真13-17シジミチョウ科の種です。ウラギンシジミ写真13)は目撃頻度は少ない方ですが、季節を問わず年中見ることができます。

↑写真13  ウラギンシジミ Curetis acuta(2023年7月28日)

ミドリシジミは年1化性で、6月に発生しますが、7月に入ってもまだまだ姿を現してくれます(写真14)。

↑写真14  ミドリシジミ Neozephyrus japonicus(2023年7月7日)

この時期で意外だったのがウラナミシジミの目撃です(写真15)。例年夏の終わりとともに北上化してきて見られるという印象ですが、今年は早くも姿を見ることができました。地球温暖化の影響でしょうか。

↑写真15  ウラナミシジミ Lampides boeticus(2023年7月24日)

写真16はルリシジミです。5月からずうっと見られる種で、類縁のヤマトシジミよりやや大きく、色が明るい感じで、高い位置を飛ぶこともあるのでも、飛んでいても見分けることができます。

↑写真16  ルリシジミ Celastrina argiolus(2023年7月28日)

ヤマトシジミ写真17)は初春からずうっと見られる種ですが、夏はとくに個体数が増えるようです。写真は交尾中の個体ですが、♀は裏翅の黄色味が強いので区別がつきます。

↑写真17  ヤマトシジミ Zizeeria maha(2023年7月7日)

セセリチョウ科のチョウでは、イチモンジセセリ写真18)が最も普通の種で、5月から発生しますが、本格的に姿を現すのは7月からです。

↑写真18  イチモンジセセリ Parnara guttata(2023年7月24日)

イチモンジセセリと同様の季節パターンを示すのが、チャバネセセリです(写真19)。

↑写真19  チャバネセセリ Pelopidas mathias(2023年7月7日)

オオチャバネセセリ(写真20)は上記2種と比べて発生時期がやや遅れます。6月中旬〜7月に最も多く見られ(この時期最も多いセセリチョウ)、秋になるとまた増えてきます。

↑写真20  オオチャバネセセリ Zinaida pellucida(2023年7月2日)

セセリチョウのなかで個体数が少ないのがコチャバネセセリです(写真21)。ゆるむしの森ではメダケ林の周辺でよく見ることができます。

↑写真21  コチャバネセセリ Praethoressa varia (Thoressa varia)(2023年7月7日)

さらに個体数が少ないと感じるのがミヤマチャバネセセリです(写真22)。4月に発生し、一旦見られなくなり、7月にまた見られるようになります。

↑写真22  ミヤマチャバネセセリ Pelopidas jansonis(2023年7月4日)

上記の写真で示したチョウ以外で、今年の7月に見られた種は以下のとおりです。

アゲハチョウ科:アゲハチョウ、クロアゲハ、ナガサキアゲハ、アオスジアゲハ

シロチョウ科:モンシロチョウ、キタキチョウ

タテハチョウ科:キタテハ、ゴマダラチョウヒカゲチョウサトキマダラヒカゲ、テングチョウ

シジミチョウ科ベニシジミ、ツバメシジミ

セセリチョウ:ダイミョウセセリ

           

カテゴリー:生き物観察

セセリチョウとジャノメチョウ

カテゴリー:生き物観察

セセリチョウ科やジャノメチョウ亜科(タテハチョウ科)のチョウは、翅が茶色中心で割と地味ですが、希少種も多いです。ゆるむしの森には、埼玉県の準絶滅危惧種 [1] も含めて多くの希少種が生息しています。これまで、セセリチョウ科8種ジャノメチョウ亜科6種の生息を認めています。おそらく、休耕田跡に発生した森と草地のバランスがよく、幼虫の主な食草であるイネ科植物が豊富にあるためと思われますが、この小さなエリア(約 1 ha)にこれだけの種が集中して生息している理由の解明は、これからの調査研究に負うところが大きいです。

7月になると例年現れる種数が増え、この森では両分類群のチョウが最も個体数が多くなります。ここで、7月初頭に見られたいくつかの種を紹介します。

写真1はダイミョウセセリ(チャマダラセセリ亜科)です。森の東側にあるアキニレの林の中でグルグル飛んでいるところを発見し、とまったところで本種だとわかりました。本種の目撃頻度はそれほど高くはありませんが、5月ではこの森で最も多く見られるセセリチョウになります。

写真1  アキニレの林間にいたダイミョウセセリ Daimio tethys(2023年7月4日)

セセリチョウ亜科の種の幼虫がイネ科植物を食草とするのに対し、ダイミョウセセリはヤマノイモ科植物を食草とします。

セセリチョウ亜科のなかでは、イチモンジセセリが最も普通の国内種の一つです(写真2–3)。この森では、例年初夏にはあまり見られず、7月から本格的に姿を現します。写真2の個体は、黄土色の印象が強く、この時期に羽化したものだとわかります。近づいてよく見ないと裏後翅の一文字の白点がはっきり確認できません。

写真2  イチモンジセセリ Parnara guttata(2023年7月4日)

写真3イチモンジセセリも黄土色が強く、羽化直後のものでしょう。

写真3  上記とは別個体のイチモンジセセリ(2023年7月4日)

イチモンジセセリと並んで普通種として一般に知られているのがチャバネセセリ(セセリチョウ亜科)です(写真4)。この種も7月から多くなります。裏翅の白点が小さくて見づらいので、近づいてよく見ないと同定が容易でありません。

写真4  アカツメクサにとまっていたチャバネセセリ Pelopidas mathias(2023年7月4日)

時期的に、上記2種よりも早く、多く見られるのがオオチャバネセセリ(セセリチョウ亜科)です(写真5–6)。6月半ばから多く見られるようになり、この森ではいま最も目撃頻度の高いセセリチョウになります。

写真5  翅が開き気味のオオチャバネセセリ Polytremis pellucida(2023年7月4日)

オオチャバネセセリは全国的に個体数を減らしている種であり、埼玉県では準絶滅危惧(NT2)として指定されていますが [1]、この森では多産するセセリチョウの一つです。全国的な個体数減少の主因はイネ科草地やササ・メダケ林の縮小にあると思われますが、この森での幼虫の食草の嗜好性と範囲が詳細にわかれば、それを読み解くヒントになるかもしれません。

写真6  翅を開いたオオチャバネセセリ(2023年7月4日)

ゆるむしの森において、オオチャバネセセリと比べて目撃する機会が少ないのが、ミヤマチャバネセセリ(セセリチョウ亜科)です(写真7–8)。例年4月に発生し、2化目のものが7月から見られるようになります。裏後翅中央にある白点が目印で、一目で本種だと同定できます。

写真7  ミヤマチャバネセセリ Pelopides jansonis(2023年7月4日)

ミヤマチャバネセセリも全国的な個体数減少が懸念されているセセリチョウ種です。埼玉、千葉県内ではオオチャバネセセリよりもむしろ個体数が少ない印象を受けます。千葉県では「C 要保護生物」に指定されています [2]

写真8  上記とは別個体のミヤマチャバネセセリ(2023年7月4日)

上記のセセリチョウ以外ではコチャバネセセリも目撃できましたが、残念ながら写真に収めることができませんでした。例年7月に2化目の発生を見るギンイチモンジセセリは、まだ姿を現していません。

写真9以下は、この時期に見られるジャノメチョウ亜科の種です。ジャノメチョウ(写真9-10)は昨年1回、1頭の目撃だったので、偶産と考えていました。ところが今年の6月下旬から見られるようになり、7月になって複数頭を目撃できるようになったことで一応生息リストに加えました。今後、幼虫の発生と「食草は何か」ということを確認しなければいけません。

写真9  セイタカアワダチソウにとまるジャノメチョウ(2023年7月4日)

写真10  アキニレにとまるジャノメチョウ(2023年7月4日)

ジャノメチョウは埼玉県の準絶滅危惧種(NT2)であり [1]、県東部においては極めて稀な種です(県内周辺の市町では絶滅、あるいは記録がない)。筆者自身も、さいたま市久喜市加須市などの主な緑地で探してみましたが、これまで見たことがありません。ただ春日部市内の緑地で、2年前に、一度目撃したことがありますし、隣接する野田市(千葉県)では割と多く発生する複数の場所があります。

写真11–12はヒメウラナミジャノメです。全国的に最も普通のジャノメチョウの一つです。ゆるむしの森では、この時期ヒカゲチョウとともに最もよく見ることができます。この森では、数年前までは稀にしか見ることができませんでしたが、年を追って増えているようで、今年は普通に見ることができるようになりました。森や草地の成長とともに、増えている感じがします。この種も食草は何かということを確認する必要があります。

写真11  ジュズダマにとまるヒメウラナミジャノメ Ypthima argus(2023年7月2日)

この時期のヒメウラナミジャノメは2化目の個体だと思われます。

写真12  ジュズダマにとまるヒメウラナミジャノメ(2023年7月4日)

ジャノメチョウのなかでは、これから追ってヒメジャノメやサトキマダラヒカゲが増えてくるでしょう。

引用文献

[1]  埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

[2] 千葉県レッドリスト動物編 2019年改訂版 https://www.bdcchiba.jp/wp-content/uploads/2022/03/redlist2019.pdf

            

カテゴリー:生き物観察

6月の虫-2023:甲虫類を中心に

カテゴリー:生き物観察

前回の記事で、「6月のチョウ」を記しましたが、ここでは、ゆるむしの森でいまよく見られるチョウ以外の昆虫を、甲虫類を中心にして紹介します。今年の6月も例年通り、常連の虫たちが沢山見られます。

まずはコガネムシです(写真1-2)。緑色に輝く誠にきれいな甲虫で、気品を感じさせます。いま森内のあちこちの葉っぱにくっついているところが見られます。

↑写真1  コガネムシ Mimela splendens(2023年6月4日)

↑写真2  コガネムシ(2023年6月7日)

写真3はカナブンです。マルバヤナギの樹液場にコムラサキといっしょにいるところを撮りました。

↑写真3  マルバヤナギの樹液を吸うカナブン Pseudotorynorhina japonicaコムラサキ(2023年6月25日)

この森にはアキニレが豊富にありますが、いまあちこちの幹から樹液が出ていて、沢山の虫が集まっています。代表格の一つがハナムグリの仲間です(写真4

↑写真4  アキニレの樹液に集まったシロテンハナムグリ Protaetia orientalis およびシラホシハナムグリ Protaetia brevitarsis(2023年6月7日)

サビキコリも沢山集まってきます(写真5)。

↑写真5  アキニレの樹液を吸うサビキコリ Agrypnus binodulus(2023年6月17日)

あるアキニレでは、キタテハといっしょにクロホソナガクチキムシとコクワガタが樹液を吸っていました(写真6)。

↑写真6  アキニレの樹液に集まったクロホソナガクチキムシ Phloeotrya rugicollisコクワガタ Dorcus rectus の♀、およびキタテハ(2023年6月4日)

コクワガタとサビキコリ(写真7)。

↑写真7  アキニレ上のサビキコリとコクワガタ

こちらはコクワガタの♂です。やはりアキニレの上にいました(写真8)。

↑写真8  アキニレ上のコクワガタの♂(2023年6月4日)

写真9-11は、この森の甲虫類の王様と言うべきノコギリクワガタです。今年も無事に沢山見ることができました。

↑写真9  アキニレ上のノコギリクワガタ Prosopocoilus inclinatus の♂(2023年6月16日)

♂と♀がいっしょのノコギリクワガタ写真10)。

↑写真10  アキニレ上のノコギリクワガタの♂と♀(2023年6月25日)

穴の中にヨツボシケシキスイがチラッと見えます(写真11)。

↑写真11  写真8の4時間後のノコギリクワガタの♂と♀、およびヨツボシケシキスイ(左下)(2023年6月25日)

甲虫類以外では、この時期ダントツでハグロトンボが目立ちます(写真12)。本種は羽化後水場を離れて、薄暗い林の中に移動して生活する習性があります。林の中の観察路を進む度に、あちこちからヒラヒラ、ヒラヒラと、チョウのような飛び方で出てきます。低い位置ですぐに留りますが、近づくとまたすぐに気づいて飛び去っていくので、なかなかシャッターを切るタイミングが難しいです。

↑写真12  ハグロトンボ Calopteryx atrata(2023年6月25日)

写真13キマダラカメムシです。ツヤアオカメムシ、チャバネアオカメムシなどともに、この森で最もよく見られるカメムシの一つです。アキニレの樹皮上にいて、カメラを構えたら、横斜めにどんどん逃げていきました。その逃げる途中の写真です。

↑写真13  アキニレ上のキマダラカメムシ Erthesina fullo(2023年6月25日)

いま、ゆるむしの森でよく見られるバッタ類の一つがヒメギスです(写真14)。キリギリスの仲間ですが、キリギリスよりも小さめです。全身が黒褐色ですが、写真のように背中が緑色のものもいます。翅は通常は短いですが、この個体は長翅型です。

↑写真14  ヒメギス Eobiana engelhardti の長翅型(2023年6月21日)

最後は、昆虫ではないですが、コガネグモです(写真15)。お腹に鮮やかな黄色の横線が入っているのが特徴です。

↑写真15  ノイバラに網をはったコガネグモ Argiope amoena(2023年6月21日)

            

カテゴリー:生き物観察