ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、調査記録、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

カテゴリー別記事

f:id:yurumushinomori:20211123125452j:plain

            

2024年の秋ークロコノマチョウを中心に

2024.11.04更新

カテゴリー:生き物観察

年を経るごとにだんだんと夏が暑くなり、かつ長期化していますが、今年の夏は特に著しいものでした。秋の訪れが遅くなっていますが、それでも10月も半ばを過ぎると秋らしくなってきます。ここでは温暖化と秋を象徴するチョウ種の一つとして、クロコノマチョウを取り上げたいと思います。

クロコノマチョウは、タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科の種で、日本産のジャノメチョウとしては最も大きい部類に入ります(前翅長が 40 mm 前後)。南方系の種で、西日本では普通種ですが、それより東へ北へ向かうにしたがって個体数が少なくなり,本州における分布の東北限は神奈川、千葉県付近と言われています。そして、ゆるむし森が位置する埼玉県内でも年を経て目撃例が増えてきました。

ゆるむし森では 3 年前からちらほら見かけるようになり、今年になって一気に個体数が増えました。成虫で越冬するので一年中見られる種ですが、主に 7 月中旬から新規個体が発生するようになり、秋に最盛期を迎えます。黒木間蝶と漢字で表されるとおり、森林性が強く、日中は日光が当たらない林間やブッシュの中でじっとしていることが多いです。林の中を歩いていると、突然ヒラヒラと飛び出してきて驚かせてくれます。夕方になると活発に飛び回る性質があります。

クロコノマチョウの翅は濃い茶色です。夏型と秋型があり、前者で比較的黒っぽいですが、後者では翅裏が枯葉模様になります。裏翅の色や模様は個体差が大きく、写真に撮ってよく見ると、ほとんど全てが違う色彩と模様をしてします。

翅の表翅の両端には大きな蛇目模様がある一方、裏翅は目立った蛇目がなく、翅を閉じて静止するので、地面に止まっている時は保護色になって見つけるのは簡単ではありません。写真1 は地面にとまる夏型の個体です。羽化してから時間が経っているためか、少し色が薄くなっています。

↑写真1. 地面に静止するクロコノマチョウ Melanitis phedima(2024.09.26)

写真2 は、アキニレの葉上にとまった秋型の個体です。写真1 の個体に比べて明るい色をしています。

↑写真2. アキニレの上にとまるクロコノマチョウ(2024.10.11)

写真3-5 は、同じ日に撮った別々の 3 個体です。写真3 の個体は、写真2 のそれと似ていますが、後翅縁の小さな斑点が 1 個多いです。

↑写真3.  下草の上にとまったクロコノマチョウ(2024.10.17).

写真4 の個体は上記よりも色が濃いめです。

↑写真4. 地面に静止するクロコノマチョウ(2024.10.17)

さらに、胴体に向けて色が濃くなった個体です(写真5)。

↑写真5. ムキノキの幹にとまったクロコノマチョウ(2024.10.17).

写真6-8 は、さらに日が経って撮った別個体です。それぞれ、微妙に異なる色彩と模様を持っています。

↑写真6. 地面にとまるクロコノマチョウ(2024.10.22)

↑写真7.  落ち葉の上にとまるクロコノマチョウ(2024.10.22)

↑写真8.  落ち葉の上にとまるクロコノマチョウ(2024.11.04)

このようにしてみると、あらためて、クロコノマチョウは色彩と模様に個性があると感じます。

ゆるむし森には、クロコノマチョウが特に好むジュズダマをはじめとしてイネ科植物が豊富に生えており、本種の発生には適した環境だと思われます。温暖化がますます進行するとともに、目撃できる回数もさらに増えていくことでしょう。

クロコノマチョウ以外のジャノメチョウでは、ヒメジャノメがまだまだ沢山います。この時期は 4 化目の個体で、翅が傷んでおらずきれいです(写真8)。

↑写真9.  ヒメジャノメ Mycalesis gotama(2024.10.17)

ヒカゲチョウもいますが、最盛期を過ぎています(写真9)。この森では主に 6 月と 9 月に発生します。

↑写真10.  ヒカゲチョウ Lethe sicelis(2024.10.11)

10月も下旬になると、この森に沢山生えているアキニレの一部が色づき始めました。

↑写真11.  紅葉し始めたアキニレ Ulmus parvifolia(2024.10.22)

11月に入って赤みが増してきました。

↑写真12.  赤みを増したアキニレ Ulmus parvifolia(2024.11.04)

ジャノメチョウ以外のこの時期のチョウについては、次の記事で紹介したいと思います。

         

カテゴリー:生き物観察

ハギ類

カテゴリー:チョウの食草と食樹

       

ハギは、マメ科ハギ属の総称で、ハギという和名の樹種はありません。アジア、北米東部、オーストラリアなどに分布する落葉低木であり、日本ではハギ属の 8 種の野生種が知られています。秋の七草の一つで、古くから鑑賞花として親しまれています。多くの園芸品種が創出されており、なかでも、最も広く栽培されてるのはミヤギノハギです。ゆるむしの森では、野生種の代表であるヤマハギが見られます。

       

ヤマハギ Lespedeza bicolorマメ科ハギ属)    🟠食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:キチョウキタキチョウシロチョウ科)、ミスジタテハチョウ科)、トラフシジミウラナミシジミツバメシジミシジミチョウ科

北海道、本州、四国、九州の山地に自生する落葉広葉樹で、高さ 1~3 m の低木です。明確な主幹はなく、多数の枝が分岐しながら伸びていき、先端は下垂します。葉は3出複葉で互生し、葉縁は全縁です。先端はまるいか少し凹み、先端の中央は針が見られます。小葉の表面は緑色、裏面は淡白緑色で 0.5~0.7 mm の伏した毛があります。若い枝は淡褐色で短毛が見られます。花期は 7~9 月です。新枝の先端部の葉腋から葉より長い総状花序を出し、長さ 1.5 cm 程度で紅紫色の蝶形花をつけます。果実は豆果で、長さ 0.5~0.7 cm の扁平な楕円形をしています。秋の盛りに褐色に熟します。

ヤマハギの花には、多種多様のチョウ類やハチ類が吸蜜に訪れます。キチョウはもとより、シジミチョウやセセリチョウの仲間が目立ちます。

ヤマハギへの産卵で最も目立つのはキチョウです。長さ 1 mm に満たない白いレンズ状の卵を、若葉に一個ずつ産みつけます。幼虫たちの食欲は旺盛で、一株の葉が食い尽くされて丸裸になるほどです。枝には蛹(帯蛹)が連なる光景が見られます。

           

カテゴリー:チョウの食草と食樹

ネムノキ(ネム)

カテゴリー:チョウの食草と食樹

       

ネムノキ(ネムAlbizia julibrissinマメ科ネムノキ属) 🟠食樹とする(葉を食べる)幼虫のチョウ種:キチョウ(キタキチョウシロチョウ科)、コミスジタテハチョウ科

マメ科の落葉広葉樹で、高さ 5~15 m になります。本州、四国、九州、沖縄の山地、林縁、原野、河川敷などの日当たりのよい場所に自生します。公園の植栽にも利用されます。和名のネムノキ(合歓木)は「眠る木」を意味し、櫛の歯のような葉が、夜になると合わさって閉じて眠るように見えることに由来します。葉はマメ科特有の羽状複葉です。長さ 20~30 cm の 2 回偶数羽状複葉が互生(ほぼ対生)し、各羽片に 15~30 対の小葉がつきます。幹はまっすぐ伸びるか、または斜上に伸びます。樹皮は灰色から灰褐色で平滑状であり、皮目が多いです。

花期は 6~7 月で、枝先に淡紅色の花が 10~20 個頭状に集まって咲きます。

果実はいわゆるマメの形をした豆果です。長さ 10~15mで扁平な長楕円形で、秋の中頃から晩秋にかけて褐色に熟し、裂開します。

ネムノキは、キチョウ(キタキチョウ)やコミスジの幼虫の食草になります。ゆるむしの森では、ハギ類と並んでキチョウが好む木で、夏から秋にかけて大発生します。蛹は 2 本の糸で体を支える「帯蛹型」で、アゲハチョウと同じですが、細い小枝に横になったり、逆さまになったり、色々な姿を見ることができます。

        

カテゴリー:チョウの食草と食樹

ハリエンジュ(ニセアカシア)

カテゴリー:チョウの食草と食樹

       

ハリエンジュ Robinia pseudoacaciaマメ科ハリエンジュ属) 🟠食樹とする(葉や蕾を食べる)幼虫のチョウ種:モンキチョウキタキチョウシロチョウ科)、トラフシジミ、ルリシジミシジミチョウ科

マメ科ハリエンジュ属の落葉高木です。高さ 15–20 m になります。和名の由来ですが、別種であるエンジュに似た葉をもち、枝の付け根に針棘があることからこの名があります。別名ニセアカシアと呼ばれますが、これは、アカシアには似ているがアカシア属ではない、というのが理由です。植物学上はハリエンジュの名称が使われます。

樹皮は淡褐色、灰褐色で、縦に深い割れ目が入ります。葉はきょ歯なし、楕円形、長さ 12–25 cm、幅 4–7 m の奇数羽状複葉で、互生します。小葉は 3–11 対でほぼ対生です。見るからにマメ科という葉並びで、同定は容易です。花期は 5–6 月で、葉腋から長さ 10-15 cm の総状花序を下垂した、白い蝶形花を多数つけます。

北米中東部原産ですが、今では北海道、本州、四国、九州、沖縄の全国で植栽としても利用されています。しかし、アレロパシー作用を有し、在来樹種と競合しながら駆逐する性質があります。そのため、日本の侵略的外来種ワースト 100 として、また、外来生物法で要注意外来生物に指定されています。非常に繁殖力が強く、ゆるむしの森でもどんどん広がっていくので、適宜伐採管理を行なっています。

ハリエンジュは、厄介な外来種ではありますが、上記のように複数のチョウ種の幼虫の食草になっていて、その意味では貴重です。特にルリシジミの産卵はこの樹木でよく見られ、この森での主要な発生源の一つになっています。さらに、稀ではありますが、トラフシジミがこの樹木の周辺で見られることから、本種の発生を支えている可能性があります。

          

カテゴリー:チョウの食草と食樹

6月の下草花とチョウ−2

前のブログ記事(6月の下草花とチョウ)で、6 月にシロツメクサムラサキツメクサアカツメクサ)などの下草の花で吸蜜するチョウを紹介しました。ここでは、追加で写真に収めることができた種や個体を載せます。

まずはモンキチョウです(写真1)。キチョウやモンシロチョウよりも飛び方が速く、花で吸蜜するシーンをなかなかタイミングよく捉えらませんでしたが、やっと一枚撮ることができました。

↑写真1  ムラサキツメクサで吸蜜するモンキチョウ Colias erate(2024.06.29)

次はヒメアカタテハです(写真2)。前回はシロツメクサにとまる個体だったので、今回はムラサキツメクサを訪れた個体を載せました。

↑写真2. ムラサキツメクサにとまるヒメアカタテハ Vanessa cardui(2024.06.29)

写真 3 はミヤマチャバネセセリです。当日の観察では、複数の個体がムラサキツメクサで盛んに吸蜜してところを確認できました。後翅裏側の中央にある目立つ白点が、同定のポイントになります。

↑写真3上下  ムラサキツメクサで吸蜜するミヤマチャバネセセリ Pelopidas jansonis(2024.06.29)

ミヤマチャバネセセリは、名に「ミヤマ」と付いていますが、平地でも見られる普通のセセリチョウ種です。しかし、最近では全国的に個体数が激減しており、関東でも生息場所は局所的になりつつあります。県や自治体によっては、凖絶滅危惧種に指定されています。ゆるむしの森でも個体数は少ないですが、主な食草であるオギチガヤが割と豊富にあり、減少している印象はないです。

チャバネセセリもムラサキツメクサを訪れていました(写真4)。

↑写真4  ムラサキツメクサで吸蜜するチャバネセセリ Pelopidas mathias(2024.06.29)

写真 5 は、ササの葉に付いた鳥の糞らしきものを吸っていたチャバネセセリです。

↑写真5  ササ上の遺物(鳥の糞?)を吸うチャバネセセ(2024.06.29)

前回もツバメシジミを紹介しましたが、今回はムラサキツメクサの上で交尾する個体を載せます(写真5)。

↑写真5  ムラサキツメクサの上で交尾するツバメシジミ Everes argiades(2024.06.29)

最後は、シロツメクサで吸蜜するツメクサガです(写真6)。ムラサキツメクサシロツメクサを頻繁に訪れるヤガ科、タバコガ亜科の種です。後翅の裏側中央に黒い斑点があるはずですが、この個体にはありませんでした。

↑写真6  シロツメクサで吸蜜するツメクサガ Heliothis maritima(2024.06.29)

          

カテゴリー:生き物観察

6月の下草花とチョウ

カテゴリー:生き物観察

ゆるむしの森では、春から初夏にかけていろいろな花が咲きます。5月からはノイバラ、スイカズラ、ウツギ、イボタノキ、ネズミモチ、クリ、アカメガシワなどの樹木の白い花が順に咲きますが、6月に入るとこれらは衰えていき、6月下旬にもなるともう見られなくなります。この時期になると、チョウの吸蜜源はもっぱら下草の花です。特にヒメジョオンシロツメクサムラサキツメクサアカツメクサ)には、多種多様のチョウが蜜を求めてやってきます。6 月に写真に収めることができたチョウを以下に紹介します。

写真 1 は、シロツメクサで吸蜜するモンシロチョウです。今年は特にモンシロチョウが大発生しているようで、ゆるむしの森全体および周囲の農道、畑に、例年以上に乱舞しています。この時期は 2 化目の個体です。

↑写真1  シロツメクサで吸蜜するモンシロチョウ Pieris rapae(2024.06.22)

シロチョウ科では、他にモンキチョウシロツメクサによく訪れていますが、なかなかチャッターチャンスがありません。

タテハチョウの仲間では、ヒメアカタテハが比較的よく花にとまっています(写真2)。

↑写真2  シロツメクサで吸蜜するヒメアカタテハ Vanessa cardui(2024.06.20)

草地のヒメジョオンには、ツマグロヒョウモンをよく見かけます(写真3)。

↑写真3  ヒメジョオンで吸蜜するツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius(2024.06.22)

シジミチョウの仲間は、下草の花が大好きで花の周りを乱舞しています。写真 4 ヒメジョオンを訪れたベニシジミです。この時期は 2 化目の個体です。

↑写真4  ヒメジョオンにとまるベニシジミ(2024.06.17)

次はシロツメクサで吸蜜するベニシジミです(写真5)。

↑写真5  シロツメクサで吸蜜するベニシジミ(2024.06.22)

トラフシジミはこの森では稀にしか見ない種ですが、この日はシロツメクサで吸蜜していました(写真6)。この個体は夏型で、春型には見られる白いストライプが薄茶色になって見にくくなっています。

↑写真6  シロツメクサで吸蜜するトラフシジミ(2024.06.22)

写真 7 はツバメシジミです。この個体はメスで、シロツメクサで産卵していました。

↑写真7  シロツメクサを訪れたツバメシジミ(2024.06.22)

ツバメシジミとともにシロツメクサの周りを乱舞しているのがヤマトシジミです(写真8)。この小さなチョウを見ると、いつも心が和みます。

↑写真8  シロツメクサにとまるヤマトシジミ(2024.06.22)

ムラサキツメクサが好きなチョウがセセリチョウです。この時期は、オオチャバネセセリがよく吸蜜しています(写真9)。

↑写真9  ムラサキツメクサで吸蜜するオオチャバネセセリ(2024.06.17)

6 月はオオチャバネセセリよりも少ないですが、イチモンジセセリも時々見かけます(写真10)。

↑写真10  ムラサキツメクサで吸蜜するイチモンジセセリ(2024.06.05)

このほかに、チャバネセセリとミヤマチャバネセセリが吸蜜する場面を見かけますが、今年はまだ写真に撮れていません。

農道沿いにはこれらの花がたくさん咲いていますが、定期的に草刈りがなされているので、その間の貴重なチョウとの出会いです。チョウのトランセクト調査を定期的に行っていますが、草刈りの後はいつも記録する個体数が減るのが残念です。

          

カテゴリー:生き物観察

ムラサキツメクサ(アカツメクサ)

カテゴリー:チョウの食草と食樹

       

ムラサキツメクサ Trifolium pratenseマメ科シャクジソウ属) 🟠食草とする幼虫のチョウ種:モンキチョウシロチョウ科)、ミスジタテハチョウ科)、ツバメシジミシジミチョウ科

マメ科多年草で、別名アカツメクサとも称されます。一般には、赤クローバー、レッドクローバーとも呼ばれることもあります。「ツメクサ」の名は、昔ヨーロッパから輸入されたガラス製品などの詰め物(緩衝材)に使われていたのがその由来とされています。 茎は直立して高さ 20–50 cm 程度になり、初夏に紅色の丸い花を咲かせます。日本では牧草や緑肥として利用されていましたが、今では全国に野生化しています。ゆるむしの森では、周囲の農道に沿って群生します。

小葉はふつう 3 個で、長さ 2-5 cm の楕円形をしています。葉の中心に V 字形の白い斑紋があるものが多いです。花期は 5–9 月で、長さ 1–1.5 cm の紅色の花が球状に集まって咲きます。

マメ科植物を好むモンキチョウ、コミスジ、ツバメシジミの幼虫の食草になり、特にツバメシジミの産卵シーンはよく見ることができます。また、多食性のガ(ナシケンモンなど)の幼虫の食草にもなります。花には吸蜜のために、シロチョウ科、シジミチョウ科、セセリチョウ科のチョウがよく訪れます。

ムラサキツメクサにはマルカメムシが集まっているシーンをしばしば目撃します。マルカメムシは、ダイズなど豆類の食害虫と知られているカメムシの仲間です。おそらく、ムラサキツメクサも産卵の対象としていると思われます。

興味深いことに、マルカメムシの豆類を食べる性質は、昆虫自身の遺伝子ではなく、腸内の共生細菌によって決まっているようです。メス成虫は、食草に産卵するときに、共生細菌を含んだ分泌物をいっしょに産みつけますが、卵から孵化した幼虫はその分泌物に口吻を差し込んで、共生細菌を獲得するとされています。

       

カテゴリー:チョウの食草と食樹