ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、チョウ類を中心とする調査記録、管理・運営活動を中心とする情報ブログです

アカボシゴマダラとゴマダラチョウの幼虫の見分け方

カテゴリー:科学おもしろ話

はじめに

特定外来生物であるアカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis は本州内で生息域を広げており、その分布拡大が注視されています。在来種との競合や生態学的影響を察る面で、本種の同定と類縁種との識別をしっかりと行う必要があります。特に、アカボシゴマダラと同じく、幼虫段階でエノキを食樹とする土着類縁種(ゴマダラチョウ Hestina japonica など)との識別は重要になります。

アカボシゴマダラとゴマダラチョウは、成虫であれば識別が容易ですが、幼虫の段階になると特徴が似ているため、識別には注意が必要です。アカボシゴマダラの幼虫は、一般的に、背面に見られる鱗片様突起対が 4 つあること(ゴマダラチョウは 3 つ),および尾部突起対(尻尾)が閉じていること(ゴマダラチョウは開いている)で識別できるとされています。

しかし、非典型的形態の幼虫が無視できない割合で存在し、上述ような同定の目安が通用しない場合も少なからずあります。幼虫段階でエノキを食樹とするアカボシゴマダラ、ゴマダラチョウ、オオムラサキ Sasakia charonda の 3 種については,特に越冬幼虫の形態的特徴に基づく鑑別法がウェブ上も含めて多く紹介されていますが、不慣れであると誤同定に導く危険性もあります。

今回、日本鱗翅学会の会報誌『やどりが』に、アカボシゴマダラと類縁種の幼虫の識別に関する論文が掲載されました(No.289, 11–19 [2026])。ここでは、その論文に基づいて、アカボシゴマダラの幼虫の形態的多様性やゴマダラチョウとの見分け方を紹介します。

1. 一般的特徴

1.1 越冬幼虫

アカボシゴマダラは年 4 回発生しますが、一般的に 3 化目の成虫から生じた幼虫が 10 月に集中して短角型 4 齢幼虫に変態し、越冬に入ります(図1)。一部は 4 化目に移行し、その成虫の産卵から越冬幼虫が発生します。3 化目の発生においては、長角 4 齢までに成長してから短角型 5 齢に変態する場合もあり、さらには 4 化目の長角 5 齢幼虫が蛹化せず、そのまま越冬に入ることもあります [1]

1. アカボシゴマダラの季節的発生サイクル. 既報 [1] に基づいて作図.年4回の発生の中で,越冬型(短角型)幼虫の多くは3化目の成虫の産卵から発生し,一部は4化目から発生する.

短角型幼虫は主に 11 月から幹上に移動し、さらに宿木根元の落ち葉の下に潜って越冬に入りますが、幹上での一時滞在を経ないで直接落ち葉に向かう場合もあります。従来言われてきたような幹上での越冬はまれです。越冬型幼虫の観察・調査の時期としては、落葉前の葉上の場合は 11 月中旬頃まで、落葉下においては 12 月下旬から 2 月までが適しています。

アカボシゴマダラおよびゴマダラチョウの典型的越冬型幼虫を 図2 に示します。両種とも、葉上の幼虫の体色は、季節的に緑葉と紅葉の色に対応して緑色(図2A, C)から褐色に変化し、保護色効果を生んでいます。アカボシゴマダラの場合は,落葉下で過ごす間に体色はさらにモスグリーンに変化します(図2B)。一方、落葉下のゴマダラチョウの場合は、褐色がかった、あるいは薄紫色がかった灰色のことが多いです(図2D)。

2. アカボシゴマダラおよびゴマダラチョウの典型的短角型幼虫.A, 葉上のアカボシゴマダラ; B, 落ち葉に付着して越冬するアカボシゴマダラ; C, 葉上のゴマダラチョウ; D, 落ち葉に付着して越冬するゴマダラチョウ.

越冬型 4 齢幼虫の頭部突起対(角)を除いた体長は、多くがアカボシゴマダラで 14–17  mm、ゴマダラチョウで 15–18 mm の範囲にあります。ゴマダラチョウの方がやや大きく、太った印象を与えます。

アカボシゴマダラの幼虫には、背面の鱗片状突起が 4 対あり、3番目の突起対が最も大きく、2 番目と 4 番目は相対的に小さいです(図2A, B)。尾部突起対(尻尾)は一般的に閉じています。一方、ゴマダラチョウの背部突起は 3 対のことが多く、真ん中の対が最大です(図2C, D)。

しかし、ゴマダラチョウの場合、かなりの割合で 4 対の個体も存在し、その場合の 2 番目の相対的大きさはアカボシゴマダラと同様です(図3)。そのため、ゴマダラチョウの幼虫は背面突起が 3 対であるという従来常識に拘泥しすぎると、同定を誤る可能性もあります。ゴマダラチョウの尾部突起対は、ほぼ例外なく開いてます。

3. 背面突起が 4 対のゴマダラチョウ短角型幼虫.A, B, 葉上の幼虫; C–F, 落葉下の幼虫.F は 5 対にも見える.

オオムラサキの幼虫は、アカボシゴマダラと同様に 4 対の背面突起をもちます(図4B–C)。しかし、アカボシゴマダラの背面突起対は 3 番目が丸っこく大きく目立つのに対し(図4A)、オオムラサキの背面突起対はほぼ三角形で、3 番目まで大きさが比較的揃っているので(図4B, C)、識別・同定はそれほど難しくはありません。さらに、オオムラサキは尾部突起対が常に開いています。ただ、越冬態としての褐色への体色変化が遅い個体では、アカボシゴマダラと紛らわしい場合があります(図4A, B比較参照)。

4. 落葉下におけるアカボシゴマダラ,ゴマダラチョウ,およびオオムラサキの越冬幼虫の比較.A, アカボシゴマダラ; B, オオムラサキ(体色変化不十分の個体); C, オオムラサキ(典型的な褐色個体); D, 1本のエノキ下から検出された複数のアカボシゴマダラとオオムサキ; 

そもそもアカボシゴマダラは低幼木を、オオムラサキは高木を好むのに加えて、お互い生息域も異なるので、両者が 1 本の高木から同時に出てくることはそれほど多くはりません(ほぼ関東域に集中)。オオムラサキは 1 本のエノキ高木から時に 100 頭を超えて検出されることがありますが、アカボシゴマダラの場合は多くても 10 頭以内が普通です。

まれに、オオムラサキ、ゴマダラチョウ、およびアカボシゴマダラの 3 種が一つの落ち葉で同時に見られることもあります(図5)。いっしょに比べてみれば識別は容易です。

図5. 一つの葉で越冬するアカボシゴマダラ(矢印a),ゴマダラチョウ(矢印j),およびオオムラサキ(矢印c).

オオムラサキの越冬幼虫サイズはさらに小さく、13–15 mm 程度です(頭部角を除く)。すなわち、成虫の大きさがオオムラサキ>アカボシゴマダラ>ゴマダラチョウの順になるのに対して、越冬幼虫の大きさは逆の順序になります。

1.2 終齢幼虫

アカボシゴマダラとゴマダラチョウの終齢幼虫(通常 5 齢)の場合は、比較的識別が簡単ですが、脱皮直後(特に春型)は酷似しているので注意が必要です(図6A, B)。

春型の場合、脱皮後数日で両種の春型幼虫の特徴が顕著になってきます。すなわち、背面中央に緑の縦縞が走ることは共通しますが、その傍に並走する赤褐色の帯がアカボシゴマダラではぼかし気味になっている(図6C)のに対し、ゴマダラチョウでは明瞭です(図6D)。

6. アカボシゴマダラおよびゴマダラチョウの1化目終齢(5齢)幼虫.A, 脱皮直後のアカボシゴマダラ; B, 脱皮直後のゴマダラチョウ; C, 脱皮3日後のアカボシゴマダラ; D, 脱皮3日後のゴマダラチョウ. 

また、春型では、胴体の両脇に緑の斜め縞模様が両種で見られますが(図7A, B)、アカボシゴマダラの方がよりはっきりしています。背面の帯模様や脇腹の縞模様は夏型では見られず、春型の幼虫がエノキの新葉の色や模様に適合してきたことがわかります。

春型のもう一つの識別の特徴として、ゴマダラチョウの場合、背面突起対が明瞭に認められますが(図7B矢印)、アカボシゴマダラは成長すると背面突起対が青色(図7A矢印)あるいは褐色(図7C矢印)に変わり、かつ小さく目だたなくなります。

図7. 春型終齢幼虫の特徴. A, 脱皮 9 日後のアカボシゴマダラ; B, 脱皮 10 日後のゴマダラチョウ; C, 脱皮 6 日後のアカボシゴマダラ.矢印は背部中央の突起対を示す.

幼虫の体色は、春型、夏型も含めて相対的にアカボシゴマダラの方が緑色感が強く(ゴマダラチョウは黄緑感)、かつすべすべした印象があります(ゴマダラチョウは少しザラついた感じ)。

両種とも、1–3 齢の時は背面突起対が小さく、尾部の突起対は開いているので、識別は難しいです。脱皮齢を経るごとに、それぞれの特徴が明確になってきます。

2. 非典型的形態

2.1 背面 3 対突起

一般的に言われているように、また上述したように、アカボシゴマダラ幼虫の特徴の一つは 4 対の背面突起をもつことであり、3 対を特徴とするゴマダラチョウとの鑑別性状の一つになっています。しかし、 2 番目を欠いた 3 対突起のアカボシゴマダラ幼虫も珍しくなく、同定においては注意が必要です。

図8 に、3 対の背面突起をもつ終齢(5 齢、図8A, B)および短角型 4 齢幼虫(図7C, D)を示します。これらの非典型的個体では、2 番目突起対が痕跡すらなく,一瞬見ただけではアカボシゴマダラかゴマダラチョウか紛らわしいです。短角型個体においては,背面中央の丸みを帯びた突起対が目立ちますが(図8C)、小さい突起対の個体(図8D)もしばしば見られます。また、2 番目突起対の一方だけが欠けた,言わば「3.5対」の個体もしばしば存在します(図8E, F)。

8. 非典型的な背面突起対をもつアカボシゴマダラの幼虫.A, B, 背面突起が3対の終齢幼虫; C, D, 背面突起が3対の短角型幼虫; E, 2番目の片方を欠いた終齢幼虫; F, 2番目の片方を欠いた短角型幼虫.

背面 3 対突起のアカボシゴマダラ幼虫の出現頻度は高くはありませんが、場所や時期によっては多く見られる場合があります(〜10%).

2.2 開いた尾部突起対

もう一つのアカボシゴマダラ幼虫の一般的特徴は「閉じた」尾部突起対を持つことですが、例外的に尻尾が開いた個体が見られます(図9A–D矢印)。尻尾が開いた個体では、その開き具合が様々であり、多くはゴマダラチョウほど顕著ではありません。

とはいえ、背面 3 対突起および開いた尾部突起対というゴマダラチョウの特徴を持つ個体も、まれに見られます(図9A)。ゴマダラチョウ並みに尻尾が開いた個体も時折みられます(図9B)。これらの場合では、識別・同定は慎重を要します。

9. 尾部突起対(矢印)が開いたアカボシゴマダラ幼虫.A, B, 終齢幼虫; C, D, 短角型幼虫.

開いた尾部突起対をもつアカボシゴマダラ幼虫の出現頻度は、3 対突起幼虫のそれと比べても高いです。どのくらいまでを開いていると判断するか微妙なところもありますが、調べた範囲では 5% 程度です。

2.3 その他の非典型的形態

アカボシゴマダラ越冬幼虫の特徴の一つは、3 番目の背面突起対が大きく目立つことです。しかし、この突起対が小さく、かつゴマダラチョウのように三角形に近い個体も出現します。

図10A, Bには、それぞれ越冬態の典型的個体および背面突起対が小さい個体を比較して示します。背面突起対が未発達の個体は、4 化目から発生した短角型幼虫に多く見られ、通常は体色と同じ緑色の頭部の角が赤っぽくなることが多いです(図10B)。

10. 様々な非典型的形態のアカボシゴマダラ幼虫.A, 典型的短角型個体(対照); B, 背面突起対が小さい個体; C, 背部突起対が5列の個体; D, 頭部の角を欠いた個体.

そのほか非典型的個体としては,まれに背面の突起対が 5 列のものも存在します(図10C)。さらに、頭部の角が一部欠損した春型、夏型の幼虫も見られることがあります(図10D)。

3. 鑑別性状

以上をふまえながら,あらためてアカボシゴマダラとゴマダラチョウの幼虫の見分け方を、特に非典型的形態個体を例にして示します。同定の基準として、尾部突起対が閉じていれば、まずアカボシゴマダラと考えて間違いありません。しかし、背面突起対の数についてはあまり当てにならず,さらに尻尾が開いている幼虫の場合も注意を要します。

尾部突起対が開いたアカボシゴマダラの幼虫で紛らわしいのが、特に起眠後脱皮間もない春型の個体です(図11A)。ゴマダラチョウ(図11B)と比べると、尻尾の開き具合(図11A, B矢印b)はやや小さいですが、現場での比較対象がないと判断は難しいです。

同定の拠り所の一つとしては,背面を走る 2 本の赤褐色の縦帯が挙げられます。前記したように、その縦帯がボヤけていればアカボシゴマダラ、明瞭であればゴマダラチョウです(図11A, B矢印a)。そして、全体の体色としては、ゴマダラチョウの方が黄緑色が強い印象を与えます。成長すれば背部の赤褐色縦筋は薄くなり(ゴマダラチョウでは消失する)、両脇の斜めの筋がアカボシゴマダラでは強く出てくるので(図7A, C)、同定は容易になるでしょう。

11. アカボシゴマダラとゴマダラチョウの非典型的形態幼虫の見分け方.尾部突起対が開いたアカボシゴマダラ(A)とゴマダラチョウ(B)の春型個体では,背部の赤褐色の縦帯(矢印)の明瞭さで識別可能.  背面突起が3対で尾部突起対が開いたアカボシゴマダラ(C)とゴマダラチョウ(D)の短角型個体では,頭部の黄色の線(矢印a),背面中央の突起対の形(矢印b),および尻尾の開き具合(矢印c)で識別できる.

3 対の背面突起と開いた尾部突起対の両方をもつアカボシゴマダラでは、特に葉上の幼虫の場合、細心の注意が必要です。短角型幼虫の背面中央の突起対は、アカボシゴマダラでは丸みを帯びて目立つので(ゴマダラチョウは三角形に近い)、同定の一つの目安にできます(図11C, D矢印b)。しかし、この中央突起が小さい個体も存在することも考慮しておくべきです(上述)。

尻尾の開き具合は,あくまでも相対的ではありますが、アカボシゴマダラではゴマダラチョウに比べて小さいです(図11C, D矢印c)。より頼りになると考えられるのが、頭に近い突起対に走る黄色の線です。この黄色線はゴマダラチョウでは目立つのに対して、アカボシゴマダラではあまり目立たないか、消失しています(図11C, D矢印a)。

おわりに

アカボシゴマダラとゴマダラチョウの幼虫の識別・同定は、慣れていれば全体的な特徴や印象からそれほど難しくはありません。ただここで紹介しように、形態的多様性が両種において見られるので、ウェブ上で見られるような「常識」にとらわれ過ぎると、間違いを起こす危険性もあります。

現場での幼虫観察と同定は、常に慎重に行うことが肝要です。しばしば写真撮影してはじめて識別・確認できる場合もあるので、画像での記録は重要です。

引用文献

[1] Hiraishi, A., Hiraishi, R.: Seasonal occurrence of the non-native nymphalid butterfly Hestina assimilis in the Kanto region, Japan. Lepidoptera Sci. 77, 35–55 (2026). https://www.jstage.jst.go.jp/article/lepid/77/1/77_35/_article

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