ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

白いアマガエル

カテゴリー:科学おもしろ話

はじめに

森の中や田んぼでカエルの観察を行なっていると、ときどき白いカエルを見かけることがあります。写真1は、「ゆるむしの森」で見られた通常の緑色のニホンアマガエル Hyla japonica ですが、写真2、3は白くなった個体です。

写真1  エノキの葉上のアマガエル(2022年8月6日、→ゆるむしの森のカエル

白いアマガエルは割と見かけますが、ゆるむしの森では今回初めて目撃しました。

↑写真2  コセンダングサの茎上にいた白色のアマガエル(2022年10月21日)

写真3  白色のアマガエル(2022年10月21日)

ここでは、アマガエルの体色に関わる機構や、それが変化する意味について、文献を拾いながら紹介します。

1. アマガエルの色

最初に、アマガエルがなぜ黄緑色に見えるか、そしてそれがどのように変化するかを簡単に説明したいと思います。

色素など、物が色がついて見えるのは、それが可視光を吸収す過程で、特定の波長の光だけを透過させたり、反射したりするからです。たとえば、私たちの眼に植物の葉が緑色に見えるのは、葉の中に含まれるクロロフィルが緑色の波長帯の光以外を吸収しているためです。そして吸収された光は熱に変わります。言い換えれば、色素の色は、光エネルギーが熱エネルギーに変換される過程で発する残りの(吸収されない)光の色ということになります。

アマガエルの緑がかった体色の見え方は、上記とは異なる構造色(structural color)とよばれるものが基本になっています。アマガエルの皮膚は、表面から黄色素胞、虹色素胞(iridophore)、黒色素胞の三層構造になっていますが、真ん中の虹色素胞はその結晶構造(グアニンを主成分とするプリン結晶の反射小板)により構造色を発します [1]。構造色とは、簡単に言えば、光を吸収せず、特定の波長の光だけを反射させることにより、それが色として見える機構です [2]。これは光の物理的な作用による発色であり,基本的に光エネルギーの損失を伴いません。

誰でもコンパクトディスク(CD)を手にしたことがあると思いますが、CDが発する色を思い浮かべれば構造色が理解しやすいかもしれません。CDは見る角度によってキラキラと色が変化しますが、これはCD表面にある極小の凹凸があって、角度によって光が散乱され、反射光の波長が変化するためです。

つまり、アマガエルでは、虹色素胞が緑の光だけを反射している構造色が基本にあり、それに上下の黄色素胞と黒色素胞の光の吸収が加わって、全体として黄緑色に見えていることになります。黄色素胞にはプテリジンやカロテノイドの色素顆粒が、黒色素胞にはメラニン顆粒が含まれており、ホルモンによって調節されていると考えられています。たとえば、脳下垂体から分泌されるメラニン細胞刺激ホルモンは、黒色素胞中の顆粒を分散、凝集させます。このように、これらの三層が光を反射もしくは吸収することによってアマガエルの色が微妙に変わってくるわけです。

ちなみに、構造色をもつ動物として、カメレオン、クジャクイカネオンテトラ(熱帯魚)など、昆虫ではモルフォチョウ、タマムシなど、沢山の種が知られており、日本人研究者による総説でもまとめられています [3]

青く美しく輝くモルフォチョウの翅は有名ですが、これは翅や鱗粉そのものの色ではなく、鱗粉の微細積層構造が放つ青い反射光によるものです [4]。この構造は固定されているので色が変わることはありませんが、カメレオンの場合は、皮膚表層にあるグアニン結晶構造の間隔が変わることで瞬時に体色を変化させることができます [5]。一方、これまで、アマガエルの虹色素胞の結晶構造が変化するという報告はないようです。

2. アルビノ

アマガエルが白くなるのは、上記の体色変化の可塑性のほかに、遺伝的な欠損による場合があります。カエルに限らず、動物の体色には、皮膚や眼の色素細胞にある黒色のメラニン色素が関係しています。遺伝的にこのメラニン色素をつくることのできなくなると、いわゆるアルビノになります。メラニン色素合成の鍵になる酵素チロシナーゼであり、この酵素が欠損するとアルビノとなります(ヒトでは先天性色素欠乏症とよばれる)。

アルビノは様々な動物種で見つかっていますが、カエルについては、広島大学他の共同研究チームが行なった遺伝的解析があります [6]。トノサマガエル、ツチガエル、ヌマガエルのアルビノを用いたこの研究では、原因となる遺伝的変異の多様性があることがわかりました。すなわち、トノサマガエルでは、チロシナーゼ遺伝子のそれぞれ異なる領域にフレームシフト(1塩基挿入)があるものと、3連続塩基欠失のものが見られました。ツチガエルやヌマガエルでは、1塩基置換によって別のアミノ酸に置き換わっていました。

ちなみにフレームシフトが起こると、遺伝子の読み枠がズレてまったく異なるアミノ酸配列になったり終始コドン(翻訳停止の配列)が現れたりしますので、元のタンパク質(この場合チロシナーゼ)がつくれなくなります。3塩基欠失では、対応する一つのアミノ酸がすっぽり抜けてしまうことで、元のタンパク質の立体構造を保てなくなるので、この場合も酵素をつくることは無理です。1塩基置換では、置き換わったアミノ酸が元のアミノ酸と性質が似ていれば、かろうじて立体構造と機能が保てますが、そうでなければ、たとえ酵素がつくられても働きは悪くなります。

ヒトのアルビノではこれまでに沢山のチロシナーゼ遺伝子変化が同定されていますが、上記の研究で明らかになったカエルアルビノの遺伝子変異はそのいずれとも異なっており、かつ種によっても異なるなどの多様性を示しました。

3. 体色変化の可塑性と要因

アマガエルは、普段は黄緑色ですが、状況に応じて白、茶、黒、灰色などに可逆的に体色を変化させる性質を持っています。写真2の白色アマガエルはこの例です。カエルの体色変化に関わる要因については、まだ詳細には解明されていないようで、文献検索してもあまり出てきません。よく知られているのは、♂のカエルが繁殖期になると、仲間を集めるために色を変える性的シグナルの現象です。他にも、捕食から逃れるためのカモフラージュ(保護色)、他の仲間とのコミュニケーション、体温調節などの理由が考えられています。

3-1. 神経ホルモンの関与

性的シグナルとして起こる体色変化は、いくつかの脊椎動物において重要な特徴として知られています。カエルでは、ストーニー・クリーク・フロッグ(Litoria wilcoxii)の♂は、数分以内に背中の色を茶色からレモンイエローに変えることが知られています。しかし、この顕著な体色変化はきわめて速く生じるため、性ホルモンの影響というよりも神経細胞の制御下にある可能性が考えられています。

豪州グリフィス大学(Griffith University)の研究チームは、野生のカエルの抱接(体外受精行為、amplexus)時の体色変化を観察し、これが性ホルモンあるいは神経ホルモンのいずれかによって媒介されているかを検討しました [7]。すなわち、神経伝達物質の一つでもあるエピネフリン(アドレナリン)、♂の主要なホルモンであるテストステロン、対照として生理食塩水またはゴマ油を抱接時のカエルに注射し、体色変化を調べました。また、これらを局所的に投与する非侵襲的なアプローチも用いました。

その結果、エピネフリンを投与したカエルは5分以内に茶色から黄色に顕著な色調変化を示し、3–5時間その色調を維持しました。一方、テストステロンを投与された個体や対照個体では色調変化がありませんでした。この結果は、カエルの急速な体色変化に神経細胞の調節が果たす役割の証拠を提示しています。

3-2. 環境要因

動物が環境の背景色に合わせて体色を変えるカモフラージュは、進化的適応の一つと考えられています。上記のように、カメレオンやイカは表層の結晶構造を変えることで、瞬時に体色を変えることができます。カエルはそれほど速くはありませんが、やはり背景に応じて体の色や模様を変化させます。しかし、視覚的に異質な背景(複数の色から構成される)下で体色や模様を変化させる仕組みは、まだよく分からないことが多いようです。

カエルの体色変化に与える要因は複雑です。アマガエル(Hyla)属の一種、タイヘイヨウアマガエルの体色の変化は、緑色>茶色の背景、10℃>25℃、低照度>高照度で速いことが報告されています [8]。これらの結果は、タイヘイヨウアマガエルの生理的色彩変化の機能は、単なる背景とのマッチングだけではないことを示唆しており、前述したように、体温調節にも利用されている可能性があります。

韓国の研究チームは、アマガエルの体色変化について、模様のある/ない背景、様々な無彩色/有彩色背景に対して背面模様の表現がどのように変化するかを調べました [9]。その結果、カエルは主に背景の無彩色の違いに反応すること、背景の明るさに依存して背面模様のコントラストが条件付きで発現すること、混色背景では2色の中間的な形態をとること、などが明らかになりました。これは、異なる背景に応じて背面の色と模様が変化することによって、捕食者(鳥やヘビ)の知覚に影響を与えている可能性が考えられます。

興味深いことに、アマガエルの色彩変化能力と背面パターン発現のレベルには、個体間でかなりの差があることがわかりました [9]。色彩変化能力が高いことは、様々な背景に対して最適なマッチングを達成できるため、カモフラージュの観点からは有利であると考えられます。しかし、体色を変えるという可塑性には、色素細胞の色素を並べ替えるための生理的エネルギーコストがかかることになります。つまり、体色変化の可塑性の高さを選ぶか、低いエネルギーコストで生きるか、という相反する選択圧のなかで、カエルの表現型や行動に影響を与えている可能性があります。

実際には、色変わりをしない個体は、背中の色が似ている一様な色の基質の上にいることが多く、色変わりをする個体はそのような好みがない傾向があるという報告があります [10]。このような体色変化の可塑性や行動が遺伝的要因によって誘発されるのか、環境要因によって誘発されるのかについはよくわかっていないようです。エピジェネティックな機構が関わっている可能性もあります。

おわりに

アマガエルが体の色を変えるという行動は、個体差があるという話はおもしろいです。アマガエルはよく緑色の葉の上に静止していますが、葉は均一的で模様が少なく、明るい背景色を示す特質をもちます。このような基質の上に長時間いる場合、模様をもつカエルでは生存の上で不利になりますが、そうでない場合は理にかなっています。一方、暗い基質は樹皮や落ち葉であり、複雑な模様があることが多いので、この場合は模様の有無が重要になってきます。

アマガエルが果たして、エネルギー消費を考えた上で、能動的にそのような居場所の選択をしているのか、それとも元々変色能力に個体差があるために結果としてそのような選択になるのか、興味深いところです。

それにしても、上記の写真2、3の白いアマガエルは背景の色とはまったくマッチしていません。なぜ白くなっているのか?という疑問は晴れないままです。

引用文献

[1] 市川洋子ら: 両生類の色素細胞. 電子顕微鏡 38, 207–212 (2003). https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenbikyo1950/38/3/38_3_207/_pdf

[2] 木下修一: 発色原理が異なる色―構造色―. 日本画像学会誌 50, 543–555 (2011). https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/50/6/50_6_543/_pdf

[3] Kinoshita, S. & Yoshioka, S.: Structural colors in nature: The Role of regularity and irregularity in the structure. ChemPhysChem 6, 1442-1459 (2005). https://doi.org/10.1002/cphc.200500007

[4] 東京理科大学吉岡研究室: モルフォチョウ構造色の基本原理:規則性と不規則性の共存. http://www.yoshioka-lab.com/kaisetsu/morpho.html

[5] Teyssier, J. et al.: Photonic crystals cause active colour change in chameleons. Nat. Commun. 6, 6368 (2015). https://doi.org/10.1038/ncomms7368

[6] Miura, I. et al.: Spontaneous tyrosinase mutations identified in albinos of three wild frog species. Genes Gen. Syst. 92, 189–196 (2017). https://doi.org/10.1266/ggs.16-00061

[7] Kindermann, C. et al.: The neuro-hormonal control of rapid dynamic skin colour change in an amphibian during amplexus. PLoS ONE 9, e114120 (2014). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0114120

[8] Stegen, J. C. et al.: The control of color change in the Pacific tree frog, Hyla regilla. Can. J. Zoology 82, 889–896 (2004). https://doi.org/10.1139/z04-068

[9] Kang, C. et al.: Colour and pattern change against visually heterogeneous backgrounds in the tree frog Hyla japonica. Sci. Rep. 6, 22601 (2016). https://doi.org/10.1038/srep22601

[10] Wente, W. H. & Phillips, J. B. Microhabitat selection by the Pacific treefrog, Hyla regilla. Anim. Behav. 70, 279–287 (2005). https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2004.10.029

              

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