ゆるむしの森プロジェクト

休耕田に自然発生した森林緑地「ゆるむしの森」の観察、管理・運営活動を中心とする情報ブログ

10月のゆるむしの森ー低幼木を中心に

カテゴリー:樹木と草本

「ゆるむしの森」は、休耕田に草木が生え始めてから10年も経ちませんが、すでに多種多様な樹木が見られ、これまで40種類以上を確認しています。樹高 10 mを超える高木はハンノキ、アキニレ、エノキ、ムクノキ、クワ、ハリエンジュ、ヤナギ類など10種にもなりませんが、樹高 3 mに満たない低幼木はたくさんの種類を確認しています。10月に入ってから観察した高木、亜高木の様子は別ページで紹介していますが(→10月のゆるむしの森ー樹木を中心に)、ここでは低幼木を中心に載せたいと思います。

ゆるむしの森の周辺には屋敷林や神社の森があり、ケヤキシラカシクスノキなどの高木が生えています。また200 mほど離れたところには、クヌギ、イヌシデなどの高木を含む雑木林があります。ゆるむしの森の植生は、おそらくこれらの影響と思われる低幼木が多く観察されます。

まずはブナ科コナラ属の低幼木です。森全体にクヌギが点在し、数えただけでも樹高 1 m 以上のものが20本以上はありました。野鳥がドングリを運んで落としているのでしょう。写真1および2は、それぞれ草地、ハンノキの森に生えるクヌギ低木(樹高 2 m)を示します。

写真1 草地に生えるクヌギ Quercus acutissima(ブナ科コナラ属)の幼木(樹高 1.5 m、2022年10月3日)

写真2 ハンノキの森の中に生えるクヌギ低木(樹高 2 m、2022年10月3日)

森の中には 3 mを超えるクヌギがあったのですが、6月のヒョウを伴う豪雨で折れてしまい、残念ながら枯れてしまいました。

写真3はコナラの低木です(樹高 1.5 m)。1 m以上のコナラの低幼木も10本以上は生えています。

写真3  コナラ Quercus serrata(ブナ科コナラ属)の幼木(樹高 1 m、2022年10月3日)

ゆるむしの森は落葉広葉樹の森であり、これまで常緑のブナ科高木は確認していませんが、低木ではアラカシを確認しています(写真4)。今のところ、確認しているのはこの1本のみです。低幼木は、適宜支柱でユルく固定しています。

写真4  アラカシ Quercus glauca(ブナ科コナラ属)の幼木(樹高 1.3 m、2022年10月3日)

加えて、シラカシの幼木が数本見つかっています(写真5)。森の西側には神社があり、境内にシラカシの高木がありますので、そこからの影響でしょう。

写真5  シラカシ Quercus myrsinifolia(ブナ科コナラ属)の幼木(2022年10月3日)

あと、この森の周辺には、マテバシイは全く見当たらないのに、どういうわけか幼木を3本確認しています(写真6)。マテバシイは南方系のブナ科植物で、九州や四国にしか自生していませんが、最近では関東でも公園の植栽によく使われている樹木です。近くに公園があるので、そこからドングリが飛来してきたのでしょうか。

写真6  マテバシイ Lithocarpus edulis(ブナ科マテバシイ属)の幼木(2022年10月3日)

ケヤキ(ニレ科)は1–2 mのものが数本見られます(写真7)。森の脇にはケヤキの並木がありますので、その影響でしょう。

写真7  ケヤキ Zelkova serrata(ニレ科ケヤキ属)の幼木(樹高 1.5 m、2022年10月3日)

写真8はイヌシデ(カバノキ科)の幼木で、これまで3本確認しています。これも森の外周にはない木ですが、近くの屋敷林に高木が見られます。

写真8  イヌシデ Carpinus tschonoskii(カバノキ科クマシデ属)の幼木(樹高 1.2 m、2022年10月3日)

写真9、10は、ミズキ(ミズキ科)です。昨年紹介した幼木ですが(→森の中の幼木)、1年で樹高 3 m近くになりました。森の中には3本確認し、南側のはずれには高木があります。

写真9  ミズキ Cornus controversa (ミズキ科ミズキ属)の低木(樹高 3 m、2022年10月3日)

写真10  ミズキの幼木(樹高 1 m、2022年10月3日)

これも昨年も紹介しましたが、オニグルミ(クルミ科)の低幼木を3本確認しています。1年間でかなり成長し、1.5 mほどになりました(写真11)。この木もどこからやってきたのかよくわかりません。森の近くには高木を確認していません。オナガシジミの食草として知られています。

写真11  オニグルミ Jaglans mandshuricaクルミクルミ属)の幼木(樹高 1.5 m、2022年10月3日)

写真12はカキノキ(カキノキ科)です。樹高 2 m前後の低木があちこちに生えています。

写真12  カキノキ Diospyros kakiカキノキ科カキノキ属)の低木(樹高 2 m、2022年10月3日)

写真13は、落葉低木のイボタノキ(モクセイ科)です。ブッシュの中に数本生えていて、気をつけないと踏みつけてしまいそうです。ウラゴマダラシジミやイボタガの食草として知られています。

写真13  イボタノキ Ligustrum obtusifolium(モクセイ科イボタノキ属)の幼木(樹高 1 m、2022年10月3日)

森の中には、イロハモミジ(ムクロジ科)の幼木がたくさん見つかりますが、なかなか育ちません(大部分が夏枯れしてしまいます)。写真14はその中でも何とか成長した株です。

写真14  イロハモミジ Acer palmatumムクロジ科カエデ属)の幼木(樹高 1 m、2022年10月3日)

昨年も紹介しましたが、森の中には落葉低木のヒメウツギアジサイ科)が生えていて、初夏になると白い可憐な花を咲かせます。少しずつ増えているようで、今日も1本みつかりました。

写真15 ヒメウツギ Deutzia gracilisアジサイ科ウツギ属)の幼木(2022年10月3日)

写真16は、つる性落葉低木のサルトリイバラ(別名:サンキライ)です。森の草地部分に数株見つけました。晩秋にかけて 1 cm弱の朱赤色の赤い実をつけます。タテハチョウ科ルリタテハの食草として知られています。

写真16  サルトリイバラ Smilax china(サルトリイバラ科サルトリイバラ属、旧分類ではユリ科シオデ属)(2022年10月3日)

これもつる性低木ですが、スイカズラスイカズラ科)です(写真17)。昨年も紹介しましたが、森の中のあちこちに生えていて、初夏には香水のようないい匂いがする白い花を咲かせます。森の中には、タテハチョウ科のイチモンジショウやアサマイチモンジがたくさん見られますが、これらの生育を支える貴重な食草です。

写真17  スイカズラ Lonicera japonicaスイカズラスイカズラ属)(2022年10月3日)

最後はムラサキシキブです(写真18)。シソ科の落葉低木で、日本各地の林などに自生しています。果実が紫色で美しいので観賞用に栽培されている木です。

写真18  ムラサキシキブ Callicarpa japonica(シソ科ムラサキシキブ属)の幼木(樹高 1 m、2022年10月3日)

以上、ゆるむしの森の低幼木のいくつかを紹介してきました。残りの種や新しく見つかったものについても随時紹介していきたいと思います。

              

カテゴリー:樹木と草本

10月のゆるむしの森ー樹木を中心に

カテゴリー:樹木と草本

10月の入り、「ゆるむしの森」でもちょっぴり秋の様相を呈してきました。ここでは今の時期の森の様子を、樹木を中心に紹介したいと思います。森の周囲には常緑の高木も見られますが、森内に生えている高木、亜高木はすべて落葉広葉樹です。

まずは、森の北西部の入り口にあるハンノキの高木です(写真1、2)。樹高 20 mに達するこのハンノキはゆるむしの森のシンボル的存在です。2019年の台風でだいぶ枝折れしましたが健在です。おそらく、この森のハンノキ群生の起点になった樹木だと思われます。

写真1  ハンノキ Alnus japonica(カバノキ科ハンノキ属)の高木(2022年10月3日)

写真2  ハンノキの高木の主幹(2022年10月3日)

北西の入り口からハンノキの森に入っていきます(写真3)。

写真3  ハンノキの森の入り口からの観察路(2022年10月3日)

ハンノキの森に入ると、樹高 10 m を超える約40本のハンノキが群生しており、ミドリシジミオナガミズアオなどのチョウ目昆虫の生息を支えています。写真4、5はそのうちの1本を示します。

写真4  ハンノキ(2022年10月3日)

写真5  ハンノキの主幹と葉(2022年10月3日)

ハンノキの森を抜けて南側に出ると、草地が広がっており、ところどころにハンノキの孤立木が見られます。写真6はこれもシンボル的なハンノキのツインタワーです。草地ではセイタカアワダソウの侵入が著しく、定期的に引き抜きを行なっています。春の様子(写真7)と比べると、繁茂ぶりがよくわかります。

写真6  ハンノキのツインタワー(2022年10月3日)

写真7  ハンノキのツインタワー(2022年4月30日)

写真8は、南側の草地からハンノキの森を見たところです。ヨシの穂が秋を感じさせます。

写真8  ヨシ Phragmites australis(イネ科ヨシ属)が生える草地からみたハンノキの森(2022年10月3日)

ハンノキの森の東側は水田になっています。写真9は、稲刈り後の水田(刈り取られた跡から新たな苗が出ています)からハンノキの森を見たところです。右側の樹木はマルバヤナギです。

写真9 水田から望むハンノキの森(2022年10月3日)

ハンノキの森には数本のマルバヤナギが混在しています。森の東端には樹高 10 m を超えるマルバヤナギが生えています(写真10、11

写真10  ハンノキの森の東端に生えるマルバヤナギ Salix chaenomeloides(ヤナギ科ヤナギ属)(2022年10月3日)

写真11  マルバヤナギの主幹と葉

マルバヤナギは6月から7月にかけて新葉が紅葉するので、別名アカメヤナギともよばれます(写真12)。初夏には発生する綿毛が飛散して、森全体が吹雪のような感じになります。

写真12  マルバヤナギの紅葉(2022年7月7日)と綿毛(2022年5月18日)

この森にはマルバヤナギのほかにカワヤナギがたくさん生えており、これらのヤナギ類が、タテハチョウ科コムラサキの生息を支えています(写真13)。だいぶ数は少なくなりましたが、今日もこれらのヤナギの周りをコムラサキが飛翔していました。

写真13  ハンノキの森の西端に生えるカワヤナギ Salix gilgiana(ヤナギ科ヤナギ属)(2022年10月3日)

ゆるむしの森の南西側には、北側のハンノキの森と草地を隔ててメダケ林があります。写真14はそのメダケ林の北端にある樹高 8 mのマグワです。クワの木はこの森に点在しています。とても成長が速い木です。

写真14  マグワ Morus alba(クワ科クワ属)の木(2022年10月3日)

このクワの木は、東側のアキニレの森に続く観察路の入り口になっています(写真15)。右側にメダケ Pleioblastus simonii(イネ科メダケ属)が見えます。

写真15  ゆるむしの森西側の観察路の入り口(2022年10月3日)

メダケ林を右手に見て抜けると、樹高約 8 mのムクノキがあります(写真16、17)。ムクノキもこの森に点在します。


↑写真16  ムクノキ Aphananthe aspera(アサ科ムクノキ属)(2022年10月3日)

写真17  ムクノキの主幹と葉(2022年10月3日)

ムクノキの南側には、アカメガシワの低木(樹高約 6 m)があります(写真18、19)。

写真18  アカメガシワ Mallotus japonicasトウダイグサ科アカメガシワ属)(2022年10月3日)

写真19  アカメガシワの主幹と葉(2022年10月3日)

アカメガシワのすぐ南側にはエノキの低木が生えています(写真20)。樹高約 6 mです。左手にアカメガシワ、右手にムクノキが見えています。

写真20 エノキ Celtis sinensis(アサ科エノキ属)(2022年10月3日)

エノキは、この森においてハンノキ、アキニレに次いで多い樹木で、あちこちに点在しています。写真21、22は、水田の東側にある混成の森(アキニレ、エノキ、カワヤナギ、ムクノキ、クワが混在)にあるエノキの一つ(樹高 8 m)です。

写真21  エノキ(2022年10月3日)

写真22  エノキの主幹と葉(2022年10月3日)

一部のエノキ(樹高 5 m)はもう紅葉していました(写真23)。少し早いので、この木は弱っているのかもしれません。

写真23  紅葉したエノキ(2022年10月3日)

樹高 5 mを超えるエノキは、森内で8本確認しており、周囲には 20 mの高木も存在し、タテハチョウ科のゴマダラチョウやヒオドシチョウの発生を支えています。一方、同じくエノキを食樹とするアカボシゴマダラは、多くは低幼木に発生します。

最後はアキニレです。ゆるむしの南東側には、ほぼアキニレ(樹高 10 m程度)から成る森があり、夏になるとたくさんのクワガタムシが見られます。またヒオドシチョウの幼虫も見ることができます。写真24は、枝先の葉を下から見た写真で、ツマグロヒョウモンがとまっていました。

写真24  アキニレ Ulmus parvifolia(ニレ科ニレ属)の枝先の葉(2022年10月3日)

ゆるむしの森に見られる低幼木については別のページで紹介したいと思います。

            

カテゴリー:樹木と草本

セセリチョウ科

2023.11.04更新  ゆるむしの森のチョウ

ゆるむしの森に生息するセセリチョウ科 Hesperiidae のチョウは、これまで8種を確認しています。目撃できる個体数(目撃頻度)については:多い +++ 、中程度 ++、少ない +、稀 (+) で表しています。

                   

チャマダラセセリ亜科 Pyrginae

ダイミョウセセリ Daimio tethys 

●前翅長:16–22 mm  ●時期:4–10月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:●幼虫の食草:ヤマノイモ科(ヤマノイモ、ツクネイモ、オニドコロ、エドドコロ、ニガカシュウなど)

備考:春から秋まで見られる普通種ですが、目撃頻度はやや低いです。5月に見られるセセリチョウと言えば本種です。

                   

セセリチョウ亜科 Hesperiinae

イチモンジセセリ Parnara guttata

●前翅長:15–21 mm  ●時期:6月–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:イネ科(イネ、エノコログサジュズダマススキ、チガヤ、メダケなど)、カヤツリグサ科(シラスゲ、ミヤマシラスゲ)

備考:最も個体数が多いセセリチョウ種の一つですが、春には見られず、5月下旬頃から姿を現します。秋が最盛期です。

                   

チャバネセセリ Pelopidas mathias

●前翅長:14–21 mm  ●時期:6–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  幼虫の食草:イネ科(イネ、ススキ、ジュズダマ、チガヤ、メダケ、メヒシバなど)、カヤツリグサ科(ハマスゲ、ヒメクグ)

備考:イチモンジセセリと同様に普通種ですが、春には見られず、6月から現れるようになります。秋には大量に発生します。

                   

オオチャバネセセリ Zinaida pellucida

●前翅長:15–21 mm  ●時期:6–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+●埼玉県 (2018) 准絶滅危惧2型(NT2)[1●幼虫の食草:イネ科(イネ、エノコログサ、クマザサ、ススキ、チガヤ、ミヤコザサ、メダケなど)

備考:全国的に個体数を減らし続けているセセリチョウ種で、埼玉県でも准絶滅危惧2型(NT2)に指定されています。この森では、6月半ば頃から発生し、イチモンジセセリ、チャバネセセリと同様に夏から秋にかけて比較的多く見られます。6–7月にはむしろ本種が最も個体数が多くなります。

                   

コチャバネセセリ Praethoressa variaThoressa varia

●前翅長:14–18 mm  ●時期:4–9月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+  ●埼玉県 (2018) 准絶滅危惧2型(NT2)[1●幼虫の食草:クマザサ、ミヤコザサ、メダケなどササ・タケ類

備考:個体数を減らしているセセリチョウ種で、埼玉県では準絶滅危惧種(NT2)になっています。セセリチョウの仲間では比較的早い時期(4月)から発生するので、その時期には発見しやすいですが、目撃頻度は低いです。

                   

ミヤマチャバネセセリ Pelopidas jansonis

●前翅長:16–21 mm  ●時期:4–9月  ●越冬態:蛹  ●目撃頻度:+  ●幼虫の食草:イネ科(ススキ、オギ、チガヤ、ヨシ、トダシバなど)

備考:他のセセリチョウ種より、早く発生し、4月と初秋によく見られます。埼玉県内での分布は局地的で個体数は多くないようです。この森でも目撃回数は少なめです。

                   

キマダラセセリ Potanthus flavus

●前翅長:13–17 mm  ●時期:5–10月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:●幼虫の食草:イネ科(アシボソ、イヌビエ、クマザサ、チヂミザサ、ススキ、メヒシバ、メダケなど)

備考:普通種ですが、どういうわけかこの森では目撃頻度が少ないです。

                   

チョウセンキボシセセリ亜科 Heteropterinae

ギンイチモンジセセリ Leptalina unicolor

●前翅長:15–21 mm  ●時期:4–5月、7–8月 ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+  環境省 (2015) 準絶滅危惧種(NT)、埼玉県 (2018) 准絶滅危惧2型(NT2)[1●幼虫の食草:イネ科(ススキ、オギ、チガヤ、ヨシなど)

備考:ミヤマチャバネセセリ同様、時期的には早く発生し、4月に最もよく見られます。環境省 (2015) 準絶滅危惧種(NT)に指定されていますが、この森では割と多く観察されます。他のセセリチョウの多くが猛スピードで飛ぶのとは対照的に、草地をヒラヒラとか弱く飛ぶ姿が特徴的です。

                   

引用文献

[1] 埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

                   

カテゴリー:ゆるむしの森のチョウ

シジミチョウ科

2023.11.23更新  ゆるむしの森のチョウ

「ゆるむしの森」に生息するシジミチョウ科 Lycaenidaeのチョウは、これまで8種を確認しています。ここでは、撮影できた8種の写真を載せます。目撃できる個体数(目撃頻度)については:多い +++ 、中程度 ++、少ない +、稀 (+) で表しています。

                

ウラギンシジミ亜科 Curetinae

ウラギンシジミ Curetis acuta

●前翅長:20-27 mm  ●時期:3–4月(越冬型)、6–11月  ●越冬態:成虫  ●目撃頻度:+  ●幼虫の食草:マメ科(クズ、フジなど)の花や蕾

備考:周年見られるシジミチョウ種ですが、目撃頻度はやや少ないです。成虫で越冬するので冬の暖かい日にも見かけることがあります。

                

シジミチョウ亜科 Lycaeninae

ベニシジミ Lycaena phlaeas

●前翅長:14-19 mm  ●時期:3–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:スイバ、ギシギシ、ノダイオウなどのタデ科植物

最も普通に見られるシジミチョウ種の一つですが、下に示すツバメシジミヤマトシジミと比べると見かける頻度は少ないです。

                

ムラサキシジミ Arhopala japonica

●前翅長:16-22 mm  ●時期:3–4月(越冬型)、6–10月  ●越冬態:成虫  ●目撃頻度: ●幼虫の食草:アラカシ、シラカシ、イチイガシ、スダジイなどのブナ科樹木

備考:普通種ですが、他のシジミチョウに比べると、目撃できる機会は少ないです。森内における幼虫の食樹であるアラカシやシラカシの少なさに帰因すると考えられますが、隣接する神社境内にはシラカシの高木があり、より多く観察することができます。

                

ミドリシジミ Neozephyrus japonicus

●前翅長:18-23 mm  ●時期:6–7月  ●越冬態:卵  ●目撃頻度:+  ●埼玉県 (2018) 準絶滅危惧1型(NT1)[1●幼虫の食草:ハンノキヤマハンノキ、ミヤマハンノキなどのカバノキ科落葉樹

備考:埼玉県の県蝶に指定されている種で、この森でこれまで発生を確認している唯一のゼフィルス種です。発生時期である6月には割と見る機会が多いです。

ミドリシジミの幼虫(2023.04.19)

ミドリシジミの幼虫(2022.04.23)

                

ルリシジミ Celastrina argiolus

●前翅長:13-19 mm  ●時期:3–10月  ●越冬態:蛹  ●目撃頻度: ●幼虫の食草:マメ科(クズ、シロツメクサミヤコグサ、ハリエンジュなど)、バラ科(スモモ、ナナカマド、ノイバラなど)、タデ科(イタドリ、ギシギシ、スイバなど)、ミカン科(キハダ)などの花

備考:普通種ですが、下記のツバメシジミヤマトシジミの類似種と比べると、個体数は少ないです。ツバメシジミヤマトシジミが地面近くや草本の上を飛び交うのに対し、本種は森の中の陽当たりのよい樹木の周りを飛ぶことが多く、地面で吸水する姿もよく見かけます。

                

ツバメシジミ Everes argiades

●前翅長:10-18 mm  ●時期:4–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:アカツメクサカラスノエンドウ、クズ、シロツメクサ、フジ、ミヤコグサなど、多くのマメ科植物

備考:この森では、最も個体数が多いシジミチョウの一つです。地面近くや草本の上をチラチラと飛んでいますが、止まっているところを見ないとヤマトシジミと区別しにくいです。

                

ウラナミシジミ Lampides boeticus

●前翅長:13-19 mm  ●時期:8–11月  ●越冬態:不定  ●目撃頻度:+++  ●幼虫の食草:アズキ、エンドウ、カラスノエンドウ、クズ、ダイズ、ミヤコグサラッカセイなど、多くのマメ科植物

備考:夏から関東に向けて北上化し、秋に大発生しますが、冬越しはできず、翌年また北上化を繰り返すというシジミチョウです。地球温暖化とともに見かける時期が早くなっているような気がします。

                

ヤマトシジミ Zizeeria maha

●前翅長:10-16 mm  ●時期:3–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+++  ●幼虫の食草:カタバミ科植物(カタバミ、ウスアカカタバミムラサキカタバミなど)

備考:最も普通のシジミチョウですが、春の時期にはツバメシジミよりも個体数がやや少ないです。

                

上記8種の他に、トラフシジミとムラサキツバメ(下の写真)を年複数回目撃しています(おそらく生息か?)。

ムラサキツバメ Arhopala bazalus

そのほかにウラナミアカシジミ、ミズイロオナガシジミ、ゴイシシジミを目撃しており、生息しているかどうかを調査中です。

                

引用文献

[1] 埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

                

カテゴリー:ゆるむしの森のチョウ

タテハチョウ科ージャノメチョウ亜科・テングチョウ亜科

2023.11.02更新  ゆるむしの森のチョウ

「ゆるむしの森」においては、ジャノメチョウ亜科のチョウ6種の生息を確認しています。テングチョウ亜科は国内産として1種のみが知られていますが、ゆるむしの森でも稀ですが目撃できます。目撃できる個体数(目撃頻度)については:多い +++ 、中程度 ++、少ない +、稀 (+) で表しています。

                   

ジャノメチョウ亜科 Satyrinae 

ヒメジャノメ Mycalesis gotama

●前翅長:19–30 mm  ●時期:5–11月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+++  ●幼虫の食草:イネ科(イネ、エノコログサジュズダマ、ススキ、チガヤ、ミヤコザサ、チヂミザサメダケなど)、カヤツリグサ科(カヤツリグサ、シラスゲ、ヒメスゲなど)

備考:普通種で林間でよく見られます。裏翅のジャノメ模様にもけっこう個体変化があります。ゆるむしの森で最もよく見られるジャノメチョウ種です。

                   

ヒメウラナミジャノメ Ypthima argus

●前翅長:18–25 mm  ●時期:5–9月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+  ●幼虫の食草:チヂミザサ、ススキ、イヌビエ、スズメノカタビラ、クサヨシなどのイネ科植物

備考:普通種ですが、ゆるむしの森では目撃頻度の少ないジャノメチョウです。年を追って個体数が増えています。

                 

ジャノメチョウ Minois dryas

●前翅長:29–42 mm  ●時期:6月下旬–9月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:(+)  ●埼玉県 (2018) 准絶滅危惧2型(NT2[1●幼虫の食草:イネ科(ススキ、コメススキ、カモジグサ、スズメノカタビラ、クサヨシなど)やカヤツリグサ科(ヒカゲスゲ、ショウジョウズゲなど)の植物

備考:毎年1〜2回の目撃のみで偶産と考えていましたが、2023年6月下旬から頻繁に見られるようになり、生息リストに加えました。

                 

ヒカゲチョウ(ナミヒカゲ)Lethe sicelis

●前翅長:19–30 mm  ●時期:5–10月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:イネ科(クマザサ、ススキ、ミヤコザサ、メダケなど)

備考:普通種ですが、他のジャノメチョウ種と比べると発生時期はやや遅く、5月下旬から見られるようになります。6月半ば過ぎると一時期最も多いジャノメチョウになります。

                   

サトキマダラヒカゲ Neope goschkevitschii

●前翅長:28–39 mm  ●時期:5–9月  ●越冬態:蛹  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:イネ科(クマザサ、ミヤコザサ、メダケモウソウチクなど)

備考:林間を飛ぶ性質のあるジャノメチョウのなかでも、本種は黄褐色の印象が強いので、飛翔中でも見当をつけることができます。面白いことに、上記のヒカゲチョウとは時期的に交互に発生するので、両種が混在する時期は短いです。類縁種のヤマキマダラヒカゲとの識別は難しいですが、ヤマキマダラヒカゲはこの地域には生息しません。

                   

クロコノマチョウ Melanitis phedima

●前翅長:35–45 mm  ●時期:3–11月  ●越冬態:成虫  ●目撃頻度:(+)  ●幼虫の食草:イネ科(イヌビエ、エノコログサジュズダマ、チガヤ、ミヤコザサ、チヂミザサメダケ、メヒシバなど)

備考:南方系の種で、埼玉東部ではお隣の千葉県や東京都と比べても目撃は限られます。ゆるむしの森でも目撃回数は少ないですが、とくに秋になると林の中から突然ヒラヒラと飛び出してきて驚かしてくれます。

                   

テングチョウ亜科 Libytheinae

テングチョウ Libythea lepita  英: Nettle-tree butterfly

●前翅長:20-29 mm  ●時期:3–11月  ●越冬態:成虫  ●目撃頻度:(+)  ●幼虫の食草:エノキ、エゾエノキ(アサ科)、ソメイヨシノヤマザクラバラ科

備考:この森では滅多にお目にかかれない種ですが、毎年複数回目撃できますし、周辺の屋敷林の周囲や神社境内の森でも時々見かけますので、確実に生息していると思われます。

           

引用文献

[1] 埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

                   

カテゴリー:ゆるむしの森のチョウ

タテハチョウ科ーイチモンジチョウ亜科・ドクチョウ亜科

2023.11.23更新  ゆるむしの森のチョウ

「ゆるむしの森」には、イチモンジチョウ亜科のチョウ3種が生息しています。ドクチョウ亜科のチョウは1種を確認しています(ほかに偶発的飛来の可能性のある2種)。目撃できる個体数(目撃頻度)については:多い +++ 、中程度 ++、少ない +、稀 (+) で表しています。

                   

イチモンジチョウ亜科 Limenitidinae

イチモンジチョウ Limenitis camilla

●前翅長:25–36 mm  ●時期:5–10月 ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:●幼虫の食草:スイカズラ、ウグイスカズラ、タニウツギハコネウツギ、ヤブウツギなどのスイカズラ科植物

備考:イチモンジチョウ亜科のなかでは、全国的にコミスジと並んで普通に見られる種ですが、ゆるむしの森での目撃頻度は下記のアサマイチモンジより低いです。飛んでいる時には、アサマイチモンジとの識別は困難で、同定には止まっている状態で前翅の白紋をよく観察する必要があります。

                   

アサマイチモンジ Limenitis glorifica

●前翅長:28–38 mm  ●時期:5–10月 ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●埼玉県 (2018) 准絶滅危惧2型(NT2)[1●幼虫の食草:スイカズラタニウツギハコネウツギ、ヤブウツギなどのスイカズラ科植物

備考:日本では本州にしかいない種で、埼玉県内の分布も局地的ですが、分布地での個体数は割と多いです。この森でもイチモンジチョウよりも多く見られます。

                   

ミスジ Neptis sappho

●前翅長:24–30 mm  ●時期:4–10月  ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:クズ、ナンテンハギ、ハギ、ハリエンジュ、フジなどのマメ科植物

備考:イチモンジチョウ亜科のなかでは、最も普通の種です。

                   

ドクチョウ亜科 Heliconiinae

ツマグロヒョウモン Argyreus hyperbius

●前翅長:28–38 mm  ●時期:4–11月 ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  ●幼虫の食草:野生のスミレ類(スミレ、シロバナスミレ、タチツボスミレ、ヒメスミレなど)のほか、スミレ属の園芸種(パンジービオラなど)

備考:南方系のチョウであり、数十年前には関東にはいませんでしたが、年を追って北上化し、分布域を広げています。今では最も普通のヒョウモンチョウの種になりました。地球温暖化の影響に加え、ビオラなどの園芸植物の広がりも分布拡大に拍車をかけていると考えられます。

                   

ミドリヒョウモン Argynnis paphia

これまで2021年の秋、2022年の秋にそれぞれ一回ずつ目撃しています。埼玉県東部ではほとんど見られない種ですが、生息の可能性もあります。

                   

メスグロヒョウモン Damora sagana

2022年9月、ゆるむしの森の近くの樹木で一回のみ目撃(偶発的飛来か、生息しているのかを調査中)

                   

引用文献

[1] 埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

                   

カテゴリー:ゆるむしの森のチョウ

タテハチョウ科ータテハチョウ亜科・コムラサキ亜科

2023.10.13更新  ゆるむしの森のチョウ

「ゆるむしの森」には、沢山のタテハチョウ科 Nymphalidae の仲間が生息しています。これまで生息を確認しているのは19種です。ここではタテハチョウ亜科5種、コムラサキ亜科3種の写真を載せます。目撃できる個体数(目撃頻度)については:多い +++ 、中程度 ++、少ない +、稀 (+) で表しています。

                   

タテハチョウ亜科 Nymphalinae

キタテハ Polygonia c-aureum (Nymphalis c-aureum) 英:Asian Comma

●前翅長:25–35 mm  ●時期:3–4月(越冬型)、5–11月(年4回発生) ●越冬態:成虫  ●目撃頻度:+++  ●幼虫の食草:アサ、カナムグラ、カラハナソウなどのアサ科草本、アカソ、コソバイラクサイラクサ科)

備考:ゆるむしの森では最も個体数が多いタテハチョウの一つです。一年中見られる種ですが、特にカナムグラの繁殖に伴って秋に大発生します。夏型の黄色に比べて秋型は朱色が強くなります。

                   

アカタテハ  Vanessa indica  英:Indian Red Admiral

●前翅長:30–35 mm  ●時期:3–4月(越冬型)、5–10月(年3回発生)  ●越冬態:成虫、幼虫  ●目撃頻度:(+)  ●幼虫の食草:カラムシ、ヤブマオなどのイラクサ科草本ケヤキ、ハルニレ(ニレ科樹木)

備考:普通種ですが、この森や周囲エリアでは珍しい種で、目撃頻度は限られます。食草であるカラムシやヤブマオの少なさに帰因していると考えられます。

                   

ヒメアカタテハ  Vanessa cardui  英:Painted Lady

●前翅長:26–33 mm  ●時期:4–11月  ●越冬態:不定  ●目撃頻度:+  ●幼虫の食草:キク科(ハハコグサヨモギなど)、イラクサ科(イラクサ、カラムシなど)

備考:本種もアカタテハ同様普通種ですが、目撃は限られます。幼虫の食草のヨモギなどの少なさが原因だと思われます。

                   

ルリタテハ  Kaniska canace  英:Blue Admiral

●前翅長:27–43 mm  ●時期:3–4月(越冬型)、5–10月 (年3回発生) ●越冬態:成虫  ●目撃頻度:+  ●幼虫の食草:サルトリイバラ科(サルトリイバラ、シオデ)、ユリ科ヤマユリホトトギスなど)

備考:タテハチョウ亜科のなかでは、キタテハに次いでよく目撃できます。森内のサルトリイバラなどに幼虫の発生も見られます。

                   

ヒオドシチョウ  Nymphalis xanrhomelas 英:Large Tortoiseshell (yellow-legged tortoiseshell)

●前翅長:27–43 mm  ●時期:3–4月(越冬型)、6月、9–11月 (年1回発生) ●越冬態:成虫  ●目撃頻度:(+)  ●埼玉県 (2018) 絶滅危惧II類(VU)[1●幼虫の食草:エノキ、アキニレ、ヤナギ類

備考:全国的に減少が著しい種で、埼玉県内でも生息地は限られます。ゆるむしの森でも目撃頻度は少ないですが、春には越冬した個体が比較的多く見られます。

                   

コムラサキ亜科 Apaturinae

コムラサキ  Apatura metis  英:Freyer's Purple Emperor

●前翅長:30–42 mm  ●時期:5–10月(年3回発生) ●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:++  幼虫の食草:カワナヤギ、シダレヤナギ、マルバヤナギなどのヤナギ科の樹木

備考:埼玉県や周辺の地域でも減少している種で、ヤナギ類の伐採とともに次第に分布が局地的になってきています。ゆるむしの森ではヤナギ類が多く、成虫も豊富に見ることができます。

                   

ゴマダラチョウ  Hestina japonica (Hestina persimilis japonica) 英:Siren Butterfly

●前翅長:34–48 mm  ●時期:5–9月(年3回発生)●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+  幼虫の食草:エノキ、エゾエノキ(アサ科樹木)

備考:エノキを食樹とする普通種ですが、やはり全国的に個体数が年々減る傾向にあるようです。この森では、コムラサキや下記のアカボシゴマダラと比べると、目撃できる回数は少ないです。

                   

アカボシゴマダラ  Hestina assimilis assimilis   英:Red Ring Skirt

●前翅長:38–52 mm  ●時期:4–11月(年3–4回発生)●越冬態:幼虫  ●目撃頻度:+++  特定外来生物  幼虫の食草:エノキ、エゾエノキ、クワノハエノキ(アサ科樹木)

備考:この森ではキタテハと並んで最も多く見られるタテハチョウです。関東中心に生息する外来種ですが、年々生息域を拡大しています。たとえば、西の地域では愛知県で毎年越冬幼虫を確認しています。幼虫の宿木が同じであるゴマダラチョウとの競合が懸念されていますが、ゆるむしの森を含めて調べた範囲(埼玉、千葉、東京、愛知)では、本種の幼虫はもっぱらエノキ低幼木に、ゴマダラチョウは高木・亜高木に幼虫が見られ、棲み分けしている印象です。

                   

引用文献

[1] 埼玉県レッドデータブック動物編2018  (6) 昆虫類 ② チョウ目チョウ類: https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/129694/16reddatabook-chourui.pdf

                   

カテゴリー:ゆるむしの森のチョウ